人間の腸内には非常に多くの腸内細菌が生息しています。
数百から千を超える種の菌が生息していて、その分布する様子はまるで花畑のように見えることから「腸内フローラ」と呼ばれます。
国民的な乳酸菌飲料であるヤクルトが誕生してからすでに80年以上の年月が経過しています。
今では様々な整腸作用のある製品が販売されています。
その過程で腸内フローラがいいと健康にいい影響があり、腸内フローラが悪いと健康に悪い影響がある、ということが周知されてきました。
それでは腸内フローラがいい、とはどのような状態を指すのでしょうか?
目次
そもそも「腸内フローラがいい状態」「悪い状態」ってどういうこと?
腸内フローラには善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類の菌類が生息しています。
それぞれ名前の通りに善玉菌は人間にとって有益な、悪玉菌は有害な、日和見菌は中立的な働きをします。
基本的にはいい腸内フローラとは善玉菌が優勢な状態を指します。善玉菌が優勢だと悪玉菌は増殖しづらくなり、有害な作用を発揮できなくなります。
日和見菌は善玉菌が優勢で人間の免疫力が正常ならば有害な働きをせずに、善玉菌の味方をするようになります。
腸内フローラの理想的なバランスは善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7の状態と考えられています。これが腸内フローラがいい状態と言えます。
バランスのよい食生活、規則正しい生活、適度な運動習慣など生活習慣がしっかりとしていれば腸内フローラは自然とこのような割合になっていきます。
しかし現代は高脂質、高タンパクな食生活となりやすく反対に食物繊維は不足しがちです。不規則な生活にもなりやすく、運動も不足しがちです。
このように乱れた生活習慣を続けていくと悪玉菌が優勢になり腸内フローラが乱れていってしまいます。
これが腸内フローラが悪い状態となります。
腸内フローラがいいとどんなメリットがある?
善玉菌が優勢で腸内フローラの環境がいい状態とは、「全身の調子が高まる」ということです。
人間の大腸はただ単に栄養素や水分を吸収し、体外に排出するだけの器官ではありません。
人間の腸には全身の免疫細胞の60%が存在すると言われています。
腸内フローラを良好に保つことで、免疫細胞の働きも活性化され、細菌やウイルスの感染にも強くなります。人間の免疫機能は20代前半をピークに徐々に低下していきます。
30代を過ぎたころから若いころに比べて無茶が効かなくなったり、風邪を引きやすくなったりするのは免疫機能が低下しているためです。
肌荒れにも免疫機能が関わっています。免疫機能が低下してしまうとニキビができやすくなったり治りにくくなったりして、肌に痕が残りやすくなります。
さらに免疫機能だけではなく、腸内フローラの環境がいいと以下のようなメリットがあります。
ビタミンの合成
腸内フローラがいい状態だと生息している善玉菌が人間に必要なビタミン群を生産します。
ビタミンB2,ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、パントテン酸、ビオチンなどのビタミンB群やビタミンKは腸内細菌から供給される貴重なビタミンです。
特にビタミンB群はエネルギー代謝に関わるため、宿主である人間を疲れにくくしたり疲労を回復しやすくしたりします。
神経伝達物質の生産
ドーパミンやセロトニンは人間の幸福感や安静感に関わる神経伝達物質です。
これらの物質が少ないと気分が落ち込み、不安感が生じます。一部の腸内細菌はこれらの神経伝達物質を合成して、人間の精神状態にも影響を与えると考えられています。
短鎖脂肪酸の合成
乳酸や酪酸といった有機酸である短鎖脂肪酸を生産することで、酸性に弱い悪玉菌の増殖を抑制したり、腸のぜん動運動を活性化させて便通を改善したりする働きも期待できます。
腸内フローラが悪いとどんなデメリットがある?
反対に腸内フローラの環境が悪い状態とは「全身の調子が低下する」ということです。
メリットの項目で解説したように、人間の免疫細胞の60%は腸に存在しています。腸内フローラの環境が悪いと免疫細胞の働きが弱まり、細菌やウイルスの感染に弱くなってしまいます。
免疫機能というのは細菌やウイルスの感染だけに関わるのではなく、全身に発生するがん細胞などを攻撃する役割もあります。
加齢とともに体内に発生するがん細胞は増えていくため、腸内フローラが悪い状態はがんの罹患リスクを高める可能性もあります。
腸内フローラの状態が悪いと免疫機能以外にも全身の不調に繋がり、以下のようなデメリットがあります。
ビタミンの不足
腸内に生息する善玉菌はビタミンB群などを合成する働きをします。しかし腸内に悪玉菌が増えるとビタミンの合成量が減少してしまいます。
ビタミンB群が不足すると新陳代謝が滞り肌荒れが起きたり、疲れやすくなったりすることがあります。
精神への悪影響
腸内フローラの状態がよいとセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が合成されます。しかし状態が悪いと反対にそれらの物質が合成されなくなります。
その結果、精神に悪影響が現れ不安や緊張を感じやすくなることがあります。
腐敗物質の生産
善玉菌が乳酸や酪酸と言った有機酸を生産するのに対して、悪玉菌はアンモニアや硫化水素、メタン、インドールなどの腐敗物質を生産します。
これらの物質は腸壁から吸収され血流に乗り、汗腺や口から放出されることで体臭や口臭の悪化の原因にもなります。
アンモニアや硫化水素は細胞に対しての攻撃性もあるため、肌荒れや疲労、不調などの原因にもなります。
腸内フローラのいい、悪いの見分け方~自宅で簡単にできるセルフチェック~
それでは腸内フローラの状態を確認するにはどのような方法があるのでしょうか?
ここからは自分でできる簡単な見分け方を紹介していきます。
便からわかる腸内フローラセルフチェック
自分の便の状態をチェックしてみましょう。
- 便の形状がコロコロである
- 便の臭いに刺激臭が混じる、ツンとするである
ふたつともチェックが入る人は、腸内フローラの状態が悪いかもしれません。
それでは詳しく見ていきましょう。
便の形状でチェック
まず最も簡単なのが便の形状から判別する方法です。
腸内フローラがいい状態だと便の形状はバナナ状となります。
反対に腸内フローラが悪い状態だと硬く、コロコロした便の形状となります。
善玉菌が優勢だと乳酸や酢酸などの有機酸の働きで、腸のぜん動運動が促進されます。
ぜん動運動とは便を排出する動きのことを指し、排出されるまでの時間が適切だとバナナ状からやや柔らかい便になります。
しかし悪玉菌が優勢でぜん動運動が不十分だと大腸内に便が長く留まり、水分が過剰に吸収され硬く、コロコロとした便になってしまいます。
便の臭いでチェック
便の臭いも腸内フローラの状態を確認するいい指標となります。
腸内フローラがいい状態だと糞便中の善玉菌が生産する乳酸や酢酸といった有機酸の量が増えます。
そのためちょっと酸っぱいような、発酵食品のような臭いがします。
反対に悪玉菌は硫化水素やアンモニア、インドール、スカトールといった独特の刺激臭のする物質を生産します。
腸内フローラが乱れているとこれらの物質が増え、ツンとするような不快な臭いになっていきます。
まとめると以下のようになります。
腸内フローラがよい状態
- 便の形状がバナナ状
- 便の臭いが無臭、もしくは酸っぱいような発酵臭
腸内フローラが悪い状態
- 便の形状がコロコロ
- 便の臭いに刺激臭が混じる、ツンとする
便は健康のバロメーターというように腸内フローラの状態を確認するためにとても重要です。
毎日便を確認して、状態が悪そうならば腸内フローラの改善に努めましょう。
特に便秘や下痢など腸の不調を感じない人でも、腸内フローラを気にしたほうがいい?
便秘や下痢を感じず、毎日しっかりとした排便がある人でも腸内は実は悪玉菌が優勢ということもあります。
しっかりとした排便習慣がある人でも油断せず、チェックすることが必要です。
便の形状に問題がなくても、鼻がツンとするような刺激臭があるならば腸内フローラが悪い状態になっている可能性が高いです。
肉や脂質を多く摂取する人はその分、悪玉菌のエネルギー源も摂取していることになるため腸内フローラが乱れがちです。
しっかりと野菜や海藻類、豆類を食べて食物繊維を補給し、適度な運動でストレスを解消し、しっかりと睡眠を取り、善玉菌が優勢なよい腸内フローラを構築するようにしましょう。
また腸内フローラは全身の様々な点に影響を与えます。
肥満の人の腸内フローラには独特の特徴があるように、ダイエットや美肌、アンチエイジング(若返り)、長寿、糖尿病、心の健康など心身の様々な状態に関わります。
肥満や肌荒れ、不安や緊張に腸内フローラが関わっていることもあります。
まとめ
理想的な腸内フローラのバランスは善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7と考えられています。
この割合を保つことができれば腸内フローラの状態がいいと言えます。
腸内フローラをいい状態に保つことで全身の免疫機能が向上し、疲れにくくなったり肌の調子が上がったり風邪を引きにくくなったりする効果が期待できます。
反対に腸内フローラの状態が悪いと免疫機能が下がったり疲れやすくなったり、肌荒れをしやすくなります。
腸内フローラのいい、悪い状態を確認する簡単な方法は便の状態です。
いい腸内フローラなら便はバナナ状でちょっと酸っぱいような発酵臭がし、悪い腸内フローラなら便はコロコロしてツンとする刺激臭がします。
便の状態を毎日チェックし、腸内フローラの状態が悪いようならば生活習慣の改善をしましょう。
腸内フローラをいい状態に保つために重要なのはバランスのいい食生活だけではありません。
睡眠も運動もストレス発散も腸内フローラの環境をいい状態に保つためには重要です。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。