肥満とは「身体に脂肪が過剰に蓄積された」状態のことを指します。
適度な脂肪は体温を保持したり、臓器を衝撃から保護したり、緊急時のエネルギーになったりと人体にとって必要なものです。
しかし過剰に脂肪が蓄積すると、高血圧や高血糖、脂質異常症などといった生活習慣病の原因となります。
「メタボリックシンドローム」の診断基準で最も根幹的なものが内臓脂肪面積であるように、脂肪の過剰な蓄積はそれだけで健康にとってのリスクとなります。
脂肪は消費カロリーより摂取カロリーが大きいと徐々に蓄積していきます。脂質や炭水化物を摂取しすぎると、おのずと摂取カロリーも増加し、肥満になりやすくなります。
しかし、単純な摂取量や運動量以にも原因があると示唆されています。それが腸内にある「デブ菌」と「痩せ菌」です。
それぞれの菌はどのような特徴を持つのでしょうか?そしてデブ菌を減らし、ヤセ菌を増やすにはどうしたらよいのでしょうか?
目次
痩せ菌・デブ菌とはどのような菌?
まず初めに、痩せ菌・デブ菌ともに明確な株の名前は特定されていません。
どの株が人間の肥満に関係するかは、これからの研究に期待されています。
現在の研究では、人間の体型に関わるのは「バクテロイデス門」に属する細菌と「フィルミクテス門」に属する細菌と考えられています。
痩せ菌といわれているのは「バクテロイデス門」に属する細菌、デブ菌と言われているのは「フィルミクテス門」に属する細菌です。
痩せ菌と呼ばれる「バクテロイデス門」
バクテロイデス門の細菌は地中や水中に幅広く分布し、哺乳類を中心とする生物の消化管の中にも豊富に生息しています。
人間の場合、腸内フローラを構成する細菌の比率は個人差が大きいため一概には言えませんが、人類全体で見た場合、もっとも勢力が強い菌類とされています。
デブ菌と呼ばれる「フィルミクテス門」
フィルミクテス門に属する細菌は嫌気性(酸素を嫌う性質)があるため、地中や水中などにはあまり生息していません。
基本的に酸素が存在しない動物の消化管の中や表皮に生息しています。食品を発酵させる働きのある乳酸菌は、このフィルミクテス門に属しているため、人間とのかかわりが深いことが特徴です。
なぜフィルミクテス門に属する細菌が多いと太りやすいのかというメカニズムははっきりとは解明されていません。
有力とされている説は「人間では消化できない成分を分解し、エネルギーにしてしまうから」とされています。
例えば植物の細胞壁であるセルロースは栄養素でいえば食物繊維であり、人間の消化酵素では分解することができません。消化・吸収されないまま便として体外に排出されます。
フィルミクテス門に属する細菌の多くは、セルロースなどの繊維質を分解して増殖します。
分解されたセルロースは人間が消化・吸収できる糖へと変化します。
このように本来ならば人間が消化できない成分を、腸内細菌が分解することによって余分なカロリーを摂取してしまうため、太りやすくなると考えられています。
腸内フローラが肥満に与える影響
無菌状態のマウスに肥満の人の腸内フローラを移植すると、摂取カロリーや運動などの条件は変わりないのに、太りやすくなります。
反対に痩せている人の腸内フローラを移植すると条件が変わらないのに痩せやすくなります。
このように腸内フローラが肥満に与える影響はとても強いものです。
特定の菌が存在しているわけではない? 肥満の人の腸内フローラ
前項で肥満の人にデブ菌(フィルミクテス門の細菌)が多く、痩せている人に、やせ菌(バクテロイデス門の細菌)が多いことを紹介しました。
ただし正確には「肥満の人にデブ菌が存在している」のではなく、「肥満の人にはデブ菌が多く、腸内フローラの多様性が失われている」という表現が適切です。
本来的に腸内フローラは多様性があってしかるべきです。しかし肥満の人では多様性の上に成り立つバランスが崩れていることが多く、デブ菌が増加し、太りやすくなっています。
乳酸菌は増加することによって、免疫力を向上させたり、短鎖脂肪酸を生産し悪玉菌の増殖を抑制したり、便通を改善したりと健康によい働きをしています。
人体に有益な働きをする乳酸菌ですが、多ければ多いほどよいわけではなく、痩せ菌や、デブ菌のバランスが大切になります。
デブ菌を減らす方法、痩せ菌を増やす方法
デブ菌を減らし、痩せ菌を増やす。そのためには、腸内フローラが多様性を持つように、バランスを改善することがポイントとなります。
つまり「デブ菌を減らすサプリ」や「痩せ菌サプリ」というのはなく、実際には腸内フローラのバランスを改善するためのサプリメントや食品をとる必要があります。
これに有効なのが、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を直接摂取する「プロバイオティクス」という方法と、オリゴ糖などの腸内の善玉菌のエサを摂取する「プレバイオティクス」です。
実際に痩せている人の腸内フローラをメタボリックシンドロームになっている肥満の人に移植をすることにより、インスリンの感受性の改善が認められたという臨床試験の結果があります。
また人間の消化酵素では分解できないオリゴ糖を継続的に摂取することで、腸内フローラが変化し多様性が改善され、肥満が減少したことがマウスでの実験で確認されています。
デブ菌を減らす食生活、痩せ菌を増やす食生活
前述したように、デブ菌を減らす食べ物や、痩せ菌を増やす食べ物というのはありません。腸内フローラのバランスを改善することで、デブ菌を減らすことにつながります。
では腸内フローラのバランスを改善する具体的な食べ物を見ていきたいと思います。
ヨーグルトやチーズ、ぬか漬け、納豆、キムチ、ピクルスなどの発酵食品を意識して摂取するようにするとよいでしょう。
日本人は従来的に炭水化物を多く摂取してきた民族なので、特にぬか漬けやすぐき漬け、麹漬けなどの漬物類が適しています。
プレバイオティクスの代表的な物質であるオリゴ糖はゴボウや玉ねぎ、甜菜などの根菜類に含まれています。ただし、食品からは摂りにくい成分です。
日常の調味料に砂糖の代わりとして顆粒オリゴ糖やオリゴ糖シロップなどを使用したり、コーヒーや紅茶に入れてオリゴ糖サプリとして活用するのもいいですね。
まずは日常の食生活で多めに発酵食品を食べる、オリゴ糖を摂取するなど意識して、少しずつ改善させていくことが重要です。
まとめ
肥満の人と痩せている人では腸内フローラのバランスが異なっていることが明らかになっています。
肥満の人の腸内にはデブ菌類が多く、痩せている人の腸内には痩せ菌類が多い、という傾向があるようです。
ただし実際には特定の菌が宿主である人間の肥満を促しているわけではなく、腸内フローラの多様性の欠如が肥満の要因となっていると考えられています。
腸内フローラから肥満を解消するためには、多様性を改善させる必要があります。
そのためにプロバイオティクス・プレバイオティクスともに有効であることが示唆されています。
まずは手軽にはじめられる食生活の改善からスタートしてみましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。