食物繊維と聞くと便秘の解消を思い浮かべますよね。確かにその通りで、食物繊維を十分に摂取している人は便秘になりにくいです。
しかし食物繊維は腸内に生息する常在菌にも影響を与えます。善玉菌を増やして腸内フローラを改善させるためには、食物繊維の摂取が重要なポイントです。
過去、食物繊維は不要なものとされていましたが、現在では必須栄養素の一つに数えられています。しっかりと必須栄養素「食物繊維」を摂取して、腸内フローラを改善しましょう。
目次
食物繊維が腸内フローラをよくするメカニズム
そもそも食物繊維とはどのような栄養素なのでしょうか?その正体は糖の集合体です。
ブドウ糖や果糖など、糖には様々な種類があります。その糖が複数集まり、結合することで多糖類となります。
日本人がよく摂取する多糖類には、お米などに含まれるでんぷんがあります。食物繊維も、でんぷんと同じく多糖類で、炭水化物に該当します。
食物繊維と、その他の多糖類の違いは「人間の消化酵素で分解できないこと」です。
多糖類は唾液や膵液などに含まれる消化酵素により分解され、ブドウ糖まで小さくなることで吸収され、人体のエネルギーとして利用されます。
これに対して食物繊維は、人間の消化酵素ではほとんど分解できません。
メカニズム① 便秘の解消・予防
体内でほとんど分解されない食物繊維は、小腸や大腸で吸収されずにそのままの形で残ります。
食物繊維は便を形成し、しっかりと排便するために必要になる栄養素です。食物繊維の摂取量が十分ではないと、排便が促されずに便秘になりやすくなります。
便秘になるということは長時間、腸内に便が留まるということです。腸内に便が留まると大腸で便の中から水分が吸収され、どんどん硬くなってしまいます。
硬い便は排泄しづらくなり、便秘がひどくなる原因となります。同時に排便時に肛門周辺に負担を掛け、痔などの原因にもなります。
同時に腸内で便が長時間とどまっていると、悪玉菌が増殖しやすくなります。
便秘が長く続いている時の便やおならが、普段より悪臭を発していたという経験はありませんか?
これは便が長時間腸内に留まり、悪玉菌が増殖した結果、アンモニアや、インドール、スカトールなどの有害物質や特有の刺激臭のある物質が生産されたためです。
有害物質がしっかりと便として体外に排出されるならばよいですが、便秘で腸内に便が長時間留まると、それらの物質が腸壁から吸収され、全身に運ばれてしまいます。
その結果、口臭や体臭が悪化したり、肌荒れをしたり、疲れやすくなったりと悪影響を及ぼすようになります。
メカニズム② 善玉菌の増殖の促進
食物繊維は人間の消化酵素では分解できないため、通常はエネルギーとして利用することができません。
しかし、人間の腸内に生息する乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌は、食物繊維を分解してエネルギー源として利用することができます。
善玉菌は十分なエネルギー源があると増殖を促進させます。食物繊維を摂取することによって、善玉菌が腸内に増えると腸内フローラがよい状態で保たれます。
特に善玉菌は増殖の過程で代謝物として乳酸や酢酸、酪酸のような短鎖脂肪酸を生産します。
短鎖脂肪酸は酸性の物質で、善玉菌により生産されると腸内が酸性に傾きます。悪玉菌は酸性に弱いため、善玉菌が増え短鎖脂肪酸の生産量が増えるとその勢力が弱まります。
さらに短鎖脂肪酸は腸壁を刺激し、ぜん動運動(※)を活発にするため、排便を促す働きもあります。
このように善玉菌と短鎖脂肪酸は、悪玉菌自体の勢力を減らし、悪玉菌の増殖の温床となる便の排泄を促すため腸内フローラを良好にする効果があります。
食物繊維の摂取量の目標は20-60代の男性で20g以上、20-60代の女性で18g以上です。しかし野菜の不足や精白された米や小麦粉の利用が増えた結果、ほとんどの人で不足している傾向にあります。食物繊維のおすすめの摂り方については後半の項目で解説します。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維
食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維が存在します。
どちらも人間の消化酵素では分解することができず、腸内フローラを改善させる働きがありますが特徴が異なります。
水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は水に溶ける性質を持っているため、水分と混ざると粘性を持つようになります。
消化された食品とともに腸内をゆっくり移動するようになるため、血中の中性脂肪値や血糖値の急激な上昇を抑制します。
また腸内で発酵する作用が高く、善玉菌の増殖を促します。
不溶性食物繊維
不溶性食物繊維は水に溶けない性質を持っています。
主に噛みごたえのある野菜などに多く含まれるため、咀嚼する回数が多くなり、満腹を感じやすくなります。
また胃の中で水分を吸収し大きくなるため、便のかさが増え、便秘を解消させる効果が期待できます。
水溶性食物繊維よりは劣りますが、腸内の善玉菌を増殖させる働きもあります。
どちらの方が効果が高い、低いということはありません。2つの食物繊維をバランスよく組み合わせて一日の目標量を摂取できるように意識しましょう。
食物繊維の多い食品とおすすめの食べ方
食物繊維は豆類や大豆加工食品、野菜類に多く含まれています。一例ですが、特に食物繊維が多い食品には以下のようなものがあります。
ゆでいんげん豆 | 13.3 |
---|---|
ゆであずき | 11.8 |
ゆでひよこ豆 | 11.6 |
おから | 11.5 |
エシャロット | 11.4 |
ゆでえんどう豆 | 7.7 |
しそ | 7.3 |
ゆでだいず | 7 |
納豆 | 6.7 |
ゴボウ | 6.1 |
グリンピース | 5.9 |
モロヘイヤ | 5.9 |
あしたば | 5.6 |
(単位:g/100g中)
参考:日本食品標準成分表2015年版
特に豆類には食物繊維が豊富に含まれており、100gも食べれば1日の食物繊維の摂取量のおよそ半分を満たすことができます。
1度に大量の豆類を食べることは難しいので、3食のなかで少しずつ取り入れるとよいでしょう。
おすすめはいんげん豆や大豆の水煮缶です。シチューやカレーなどの煮込み料理に取り入れやすく、またサラダなどで食べることもできます。特にシチューやスープなどで食べると、きちんと水分補給もできて、便が柔らかくなり排便がスムーズになります。
スーパーなどで簡単に手に入り保存も効くので、ぜひ日常の食生活に取り入れてみてください。
青汁・野菜ジュースは食物繊維の摂取源になる?
青汁や野菜ジュースは残念ながら食物繊維の摂取源には向きません。
青汁ならば原料となるケールや大麦若葉、あしたばは食物繊維が豊富な食品ですが、青汁として実際に飲む量では十分な食物繊維を摂取できるとは言えません。
同様のことが野菜ジュースでも言えます。また野菜ジュースはのど越しをよくするために、繊維質を取り除き商品化しているものもあります。
ただし食物繊維が添加されている青汁や野菜ジュースはよい食物繊維の摂取源となります。
難消化性デキストリンという物質が比較的多く使用されています。これは、イモやトウモロコシのでんぷんから作られた非常に安全性の高い物質です。
難消化性デキストリンは水溶性食物繊維に分類され、働きも同じです。食物繊維を摂取したいならば、難消化性デキストリンが添加された青汁・野菜ジュースを選ぶとよいでしょう。難消化性デキストリンは粉末の状態で市販されているため、自分で混ぜて利用するのもおすすめです。
野菜ジュースは意外にも糖質が多いため、ダイエットをしている人ならば青汁がおすすめです。
まとめ
腸内フローラを改善させるためには、発酵食品だけではなく、食物繊維を十分に摂取することが重要です。
食物繊維は便秘を解消し排便を促し、さらに善玉菌の増殖を活性化させる働きがあります。
豆類や野菜類に多く含まれていますが、特に多いのが豆類。普段の食事で取り入れるならば、いんげん豆やゆでだいずの水煮缶がお手軽です。
人工の水溶性食物繊維である難消化性デキストリンが含まれているものもおすすめです。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。