日本は古くから様々な発酵食品を食べてきました。ぬか漬けや納豆、醤油、酒、みりん、意外なところでいうとカツオ節も発酵食品です。
菌という健康に悪そうなイメージのある微生物の作用で、これだけ多くの発酵食品が作られているなんて驚きますよね。
さらに、ヨーグルトやピクルス、ザワークラフトなど海外でも多くの種類の発酵食品が存在しています。
なぜこれだけたくさんの発酵食品が世界中で食べられてきたのでしょうか?
世界で発酵食品が重宝されてきた理由
現代では発酵食品が腸内フローラの改善に効果的で、人間に健康に非常に大きな影響を与えるということは常識となってきています。
発酵食品を摂取することによる有益な作用には以下のようなものがあります。
- 便秘の解消
- 腸内の善玉菌の増殖
- 免疫力の向上
- 対メタボ
- お肌の調子の向上
- 精神の安定
- 食欲の抑制
これらの効果が昔からわかっていた訳ではありませんでしたが、人々は古くからの生活の知恵として発酵食品を活用してきました。
その理由は以下の通りです。
①うまみ・風味の向上
例えばぬか漬けや納豆のように、発酵食品には独特の風味があります。これらは菌による分解の作用によるものです。野菜に含まれているでんぷん質や多糖類、タンパク質を菌が分解して単糖やアミノ酸に変化させます。
お米を口に入れてもはっきりと甘みが分からないけれども、砂糖を口に入れるとはっきりと甘みを感じるようになる、このように多糖類やタンパク質は分解されることでダイレクトに舌が甘みやうまみを感じられるようになり、おいしくなります。
同時に発酵臭という独特の風味も生まれます。納豆やチーズのように独特に臭いが生まれるものもあれば、大吟醸のようにまるで果物のような香りがするものもあります。
このようにうまみを増し、風味を作ることが発酵食品が重宝された理由の一つです。
②栄養素が増加する
細菌が食品を発酵させるとタンパク質などの栄養素を分解させるだけではなく、ビタミンなどの微量栄養素を増やす働きがあります。
細菌の中には増殖の過程で代謝物として、ビタミンを作り出すものもあります。発酵させることでビタミンB群やビタミンKが増加し、貴重なビタミンの供給源となります。現代ほど栄養状態が良くなかったため、普通に食べるよりも栄養素が増える発酵食品が重宝されてきました。
もちろん必須栄養素以外にも発酵食品独特の栄養素が増えることがあります。
代表的なものに納豆に含まれるナットウキナーゼが当てはまるでしょう。大豆にはナットウキナーゼは一切含まれていません。しかし納豆菌による発酵の過程でナットウキナーゼが生まれ、健康に役に立ちます。
③保存が効くようになる
発酵させることにより、食べ物は長持ちをするようになります。「発酵」と「腐敗」はとてもよく似ています。
食べ物を常温で放置すると「腐敗」し、悪臭を放ちます。腐敗した食品の中では、有害な働きをする菌が大量に増殖しているため、食べることが出来なくなります。
しかし発酵した食品の中では人間に有益な働きをする菌が増殖しており、敗を起こす菌が増殖することはできません。あまり長持ちをしない食べ物を長期保存することができるようになります。
分かりやすい例で言えばチーズなどが該当します。原料となる生乳は常温で放置するとすぐに腐敗して食べたり飲んだりできなくなります。しかし発酵させチーズにすると長期間保存ができるようになります。
この3つめの理由が発酵食品が重宝されてきた最大の理由かもしれません。
この3つの有益な働きにより、発酵食品は古くから世界各国で重宝されてきました。現代では発酵食品の持つ健康作用が科学的に解明され、世界中の発酵食品が広く利用され、注目を集めています。
人気の発酵食品3選
ここでは有名な発酵食品をいくつか紹介したいと思います。発酵食品は独特の風味も強まるため、好き嫌いも別れるでしょう。食べられるものを日常生活に取り入れると腸内環境の改善に役に立ちます。
ぬか漬け
ぬか漬けは野菜をぬかと塩、水からなるぬか床に漬けることで作られます。ぬか床には乳酸菌と酵母が存在し、主に乳酸発酵によって独特の風味を獲得します。ぬか漬けには乳酸菌が作り出す乳酸が含まれているため、少し酸っぱいような味もします。
乳酸菌が含まれているため、腸内フローラを改善する働きがあります。
また乳酸菌が作り出すビタミンやぬかに含まれている栄養素が、野菜に移るため栄養価が非常に高まります。主に野菜を着けるため食物繊維の供給源にもなり、腸内フローラを改善したい人にお勧めです。
ヨーグルト
ヨーグルトは牛やヤギ、馬などの動物の乳を乳酸菌の働きにより発酵させて作る食品です。乳酸菌が作り出す乳酸がヨーグルトには含まれているため、爽やかな酸味が特徴となっています。乳酸菌の摂取源としては非常に有効で、お腹の調子を整える作用が期待できます。
通常、乳にはビタミンCがほとんど含まれていません。しかし乳酸菌の働きにより多少、生産されるため過去、あまりビタミンCを摂れない地域の人のビタミンC供給源にもなっていました。
牛乳自体は栄養価が高く、特に日本人に不足しやすいカルシウムのよい供給源となります。しかし乳糖という物質が含まれ、体質によってはお腹を緩くしてしまうこともあります。しかしヨーグルトは乳酸菌の働きで乳糖が分解されるため、お腹が緩くなりにくいというメリットもあります。
納豆
納豆は納豆菌の作用で大豆から作られる食品です。大豆そのものが食物繊維を豊富に含んでいることから、腸内フローラを改善させる働きがあります。さらに納豆菌は腸内で食物繊維を発酵させ、短鎖脂肪酸を作り悪玉菌の勢力を弱めます。
納豆は整腸作用はもちろん、ほかにも様々な働きがあります。よいタンパク質の供給源となるほか、イソフラボンが含まれているため女性の悩みを解消したり、血栓の予防に効果的と考えられているナットウキナーゼも含まれています。
特に日本人は脳血管疾患や心疾患など循環器の病気が多いため、腸内フローラを改善しつつ、血栓を予防する納豆はピッタリな発酵食品と言えるでしょう。
まとめ
世界中のいたるところで発酵食品は利用されてきました。日本のぬか漬けや納豆はもちろん、韓国ではキムチ、ドイツではザワークラフト、ブルガリアではヨーグルトとそれぞれの地域性に合った食品が多種多様に存在しています。
人間にとって有用な菌の働きで食品を発酵させることで、おいしくなり、栄養素が増え、保存性が増すという働きがあります。
日常的に食事に取り入れることで腸内フローラを改善させる働きがあるので、少しずつでもいいので毎日食べるようにするとよいでしょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。