短鎖脂肪酸とはどんなものなのでしょうか?
短鎖脂肪酸の説明をする前に、身近な発酵食品を一つ思い浮かべてください。
乳酸菌飲料のヤクルトや発酵食品のヨーグルト、ぬか漬け、ピクルス、キムチなどが思い浮かぶのではないでしょうか。
それらの発酵食品に共通することが、どれも爽やかな酸味があることです。この酸味が短鎖脂肪酸で、発酵食品を作り出す菌群の働きによって生まれています。
腸内フローラを改善することで人間によい影響が及ぶことは、実はこの短鎖脂肪酸に関係しています。
善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸とは?
乳酸菌飲料をはじめとして、ヨーグルトやぬか漬けなどに、酸味が生まれるのは、菌によって酸性の物質が作り出されるためです。
乳酸菌の作り出す「乳酸」、ビフィズス菌が作り出す「酢酸」、酪酸菌が作り出す「酪酸」などが、酸性の性質を持った物質です。
この酸性の性質を持った物質を短鎖脂肪酸といいます。
腸内に生息している善玉菌は、食物繊維やオリゴ糖など人間の消化酵素では分解できない炭水化物をエネルギー源として、増殖していきます。その過程で代謝物としてこれらの短鎖脂肪酸が合成されます。
短鎖脂肪酸の働き~腸内フローラに与える影響
腸内には善玉菌、悪玉菌、日和見菌が存在しており、これらの割合が2:1:7の状態が、腸内フローラが良好な状態といわれています。
善玉菌が増えると、悪玉菌の割合は自然と減少していき、このバランスに近い割合となります。それは善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸による効果です。
短鎖脂肪酸は酸性の性質を持っているため、腸内を酸性に傾けます。悪玉菌は酸に弱いため、自然とその勢力を弱め増殖が抑制されます。その結果、腸内フローラがよい状態で保たれるようになります。
短鎖脂肪酸のその他の働き
短鎖脂肪酸には人間にとって有益な働きが複数あります。そのほかの短鎖脂肪酸の働きについて見ていきましょう。
脂肪細胞へのエネルギーの取り込みの抑制
肥満は脂肪細胞へエネルギーが取り込まれ、肥大化することで生じます。
短鎖脂肪酸が脂肪細胞に完治されると、エネルギーの取り込みが抑制され脂肪細胞が肥大化するのを防ぎます。
エネルギー消費の促進
短鎖脂肪酸は交感神経にも働きかけると考えられています。交感神経は日中の活動に関わる自律神経で、エネルギーを消費して心身を働かせます。
短鎖脂肪酸が交感神経に働きかけることで、エネルギー消費が促進され痩せやすい体になります。
食欲の抑制
短鎖脂肪酸はインクレチン(消化管ホルモンの総称)の分泌にも関わります。インクレチンには中枢神経を刺激し食欲を抑制する働きがあるため、過剰に食べすぎてしまうのを防ぎます。
ぜん動運動の促進
大腸には便を肛門のほうに押し出すぜん動運動という働きがあります。
筋力が弱かったり、自律神経に乱れが生じたりしてしまうとぜん動運動も弱まり便秘の要因となります。
しかし短鎖脂肪酸は腸壁を刺激して、ぜん動運動を促進させる働きがあります。
排便をスムーズにして便秘を予防・解消する働きも期待できます。
ミネラルの吸収促進
一般的にカルシウムやマグネシウム、鉄といったミネラルは、不足しがちで、かつ吸収率が悪いため、骨粗鬆症や貧血などは比較的起きやすいミネラルの欠乏症となっています。
腸内に短鎖脂肪酸が多いとこれらのミネラルを吸収しやすい形に変化させ、吸収率を高めることができます。
これらの作用のほかにもまだ研究段階ですが、免疫機能を高めたりがんの予防をしたり、糖尿病を予防したりする働きもあると考えられています。
腸内の短鎖脂肪酸を増やすには?
腸内の短鎖脂肪酸を増やすには、腸内に生息する善玉菌のエネルギー源となる成分を摂取するのが最も有効です。
善玉菌のエネルギー源は前述のとおり、難消化性の食物繊維やオリゴ糖です。最もお手軽な方法は「オリゴ糖」を摂取することでしょう。
オリゴ糖は腸内の善玉菌を増やす効果が非常に高いことが特徴です。母乳に豊富に含まれており、母乳育児をした赤ちゃんが感染症などに罹りづらい理由はオリゴ糖により腸内の善玉菌が増殖し、免疫力が高まるためと考えられています。
スーパーなどでも一般的にシロップや顆粒の状態で販売されているため、簡単に手に入れることができます。オリゴ糖は砂糖の半分程度の甘さと言われており、甘さ控えめの甘味料として人気です。飲み物に加えたりヨーグルトに加えたりしてお手軽に摂取することができます。
短鎖脂肪酸はこんな人におすすめ
短鎖脂肪酸が増えることで、便通が良くなったり、お肌の調子が良くなったりと様々なよい効果があります。
腸内フローラはどんな人でも良好に保つことが重要ですが、特にこんな悩みを持っている人はオリゴ糖や食物繊維を摂取して短鎖脂肪酸を増やすことがおすすめです。
- 健康診断でメタボリックシンドロームが気になる
- 便秘に悩んでいる
- 口臭、体臭に悩んでいる
- 風邪を引きやすい
- ミネラル不足を感じている
- お酒をほぼ毎日飲む
- 野菜をあまり食べない
- 発酵食品をあまり食べない
- 便が硬く、コロコロしている
- 便から刺激臭がする
腸内フローラの、善玉菌が優位か、悪玉菌が優位かを確認する、もっとも簡単な方法は便を確認することです。
硬く、コロコロしている場合や独特の刺激臭が強い場合は、悪玉菌が優位になっている可能性が高いです。
そんな人はぜひ、短鎖脂肪酸に注目してオリゴ糖や食物繊維を摂取するようにするとよいでしょう。
まとめ
短鎖脂肪酸は酢酸や乳酸などを直接摂取しても意味がありません。腸内の善玉菌の働きにより生産されることで、人間の健康に寄与します。
腸の健康は人間の心身に影響を与えます。腸内フローラがしっかりとよい状態ならば、免疫力も高まり元気に毎日を過ごすことができます。
腸内フローラをよい状態に保ち、しっかりと短鎖脂肪酸が生産される環境を整えるようにしましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。