2016年の厚生労働省が実施する国民健康・栄養調査で糖尿病の有病者が1000万人をこえることが判明しました。
これは日本の人口の8%ほどに値する数値です。
もはや国民病と言っても過言ではない糖尿病、発症するリスクは常に考えなければいけません。
糖尿病のリスクにも実は腸内フローラが影響を与えるということが徐々に明らかになってきました。
糖尿病にならないためにも、腸内フローラと糖尿病の関係を正しく把握しましょう。
糖尿病とは
糖尿病は血糖値をコントロールするインスリンの分泌や働きに異常が生じるため、血糖値が高くなってしまう病気です。
糖尿病そのものには自覚症状があまりありませんが、放置してしまうと糖尿病合併症を引き起こす可能性があります。
網膜症や腎症、神経障害を発症し、最悪の場合は失明や手足などが壊疽して切断を余儀なくされる可能性があります。
自己免疫疾患として肥満でないのにもかかわらず糖尿病を発症してしまう1型糖尿病もありますが、日本人の糖尿病の95%は生活習慣や食生活が発症の要因となる2型糖尿病です。
今回は生活習慣病である2型糖尿病に着目して、腸内フローラとの関係性を見ていきましょう。
糖尿病と腸内フローラの関係性
2型糖尿病は肥満や食べすぎ、運動不足に加齢が加わり発症する生活習慣病です。血中の糖はインスリンが分泌されることによって、体内に取り込まれます。
しかし糖尿病を発症しているとインスリンの働きが弱くなり、血中の糖が残ったままの状態になってしまいます。またインスリンの分泌量自体が低下することもあります。
糖尿病と腸内フローラが関連しているのは、このインスリンに影響するためです。
腸内にはたくさんの菌が生息しています。善玉菌や悪玉菌もこれに含まれます。善玉菌は食物繊維を分解する働きがあり、その際に代謝物として短鎖脂肪酸を生産します。
短鎖脂肪酸が生産されると、大腸から分泌されるGLP-1(インクレチン)というホルモンに影響を与えることが明らかになりました。
人間は通常、食事をすることで血糖値が上昇するとGLP-1が分泌されます。そして膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体とくっつきβ細胞からインスリンを分泌させます。
つまり腸内フローラの環境が良い状態(善玉菌が多い状態)であれば、短鎖脂肪酸が多く生産され、合わせてGLP-1も分泌されます。
結果インスリンの分泌を促すことにつながります。
インスリン抵抗性(インスリンが正常に働かなくなった状態)のある肥満女性に対して短鎖脂肪酸の一つである酢酸を注入し、血中のGLP-1濃度が高まったという報告もあります。
また腸内細菌には肥満を予防する働きがあることも示唆されています。肥満になるとインスリン抵抗性を高めてしまう生理活性物質が分泌されます。
その結果、インスリンの作用が弱まり血中に血糖が留まるようになり2型糖尿病を発症します。
肥満はあらゆる生活習慣病のもとと言われています。それは糖尿病でも例外ではありません。
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腸内フローラの状態が肥満や血糖値に影響を及ぼすことが明らかになり、糖尿病の発症のリスクを高めたり低下させたりすることも示唆されています。
ヨーロッパの健常者、糖尿病患者の女性145人に対して腸内細菌を調べたところ、糖尿病患者では短鎖脂肪酸である酢酸を生産する菌が少なくなっているという報告もあります。
現在では短鎖脂肪酸を生産する菌の活性により、肥満や糖尿病のリスクが左右されるようだと考えられています。
糖尿病対策を腸内フローラから考えたい場合は、短鎖脂肪酸を生産する菌を増やす食生活を送るようにするとよいでしょう。
短鎖脂肪酸である酢酸を生産するビフィズス菌が多いマウスは体脂肪量が少なくなる傾向にあります。
このことからビフィズス菌を腸内に増やす食生活が有効で、そのためには高繊維質の
食事が重要になります。
食物繊維は腸内で細菌の働きによって発酵し、短鎖脂肪酸となります。短鎖脂肪酸が肥満や糖尿病を予防するのに有効なことは今回説明した通りです。
また食物繊維はそれ自体に、腸内の余計な脂質を吸着して便と一緒に排泄する働きもあります。
糖尿病発症の大きなリスクとなる肥満を予防・改善できることから、「血糖値は大丈夫だけど太っている人」「血糖値が高めで不安な人」「家族に糖尿病患者がいる人」などに有効な成分と言えるでしょう。
ただしすでに糖尿病を発症して、医師による治療を受けている人は医師による食事指導に従うようにしてください。
食事はゆっくり食べることを心がけましょう
お腹いっぱい食べたはずなのに、少ししたらなぜかお腹が空いてしまう・・・そんな経験はありませんか?それは血糖値が急激に上昇したことによります。
人間は血糖値が上昇した状態から急激に低下したときに、空腹を感じます。
お腹いっぱい食べると血糖をエネルギーとして利用するためにインスリンが大量に分泌されます。
しかしインスリンが分泌されるということは血糖値が急激に下がることでもあります。
食事をパパっと素早く食べてしまうと満腹感を感じるまでに時間が掛かるうえに、血糖値は急激に上昇をしやすく、すぐに空腹を感じてしまいます。
食事をする際は以下のポイントに気を付けると、血糖値の急激な上昇を防ぐことができ、空腹による肥満や糖尿病リスクを低下させることができます。
- 食事は15分から30分以上かけてゆっくりと食べる
- よく噛む
- 食事を食べるときは食物繊維の供給源である野菜、血糖値を上昇させづらいタンパク質(肉、魚など)などから食べる
- 主食の大盛り、お代わりは避ける
空腹感に悩んでダイエットがうまくいかない人にもオススメです。
まとめ
糖尿病はインスリンの働きが弱まったり、分泌量が低下したりすることで発症する病気です。
食べすぎや運動不足などにより、肥満になるとインスリン抵抗性が増し、糖尿病発症リスクが増加します。
しかし近年、糖尿病の発症リスクに腸内細菌が関係していることが明らかになってきました。
腸内細菌が生産する短鎖脂肪酸は、インスリンに関わるGLP-1というホルモンの分泌を促したり、エネルギー代謝を促進して肥満を防いだりすることが判明しています。
腸内に短鎖脂肪酸を生産する細菌が多い人は糖尿病発症リスクが少ないとも言えるでしょう。
腸内で短鎖脂肪酸をしっかり生産するには高食物繊維食が重要です。まずは普段の食事に小鉢1つの野菜や根菜、海藻の副菜を増やすところから始めてみるのはいかがでしょうか?
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。