人間の腸内には非常に多くの菌が生息しています。腸内に細菌が生息する様子はまるで花畑のように分布することから「腸内フローラ」と呼ばれています。
この腸内フローラの状態が、人間の免疫機能に大きな影響を及ぼすことが分かってきました。なぜ腸と細菌が人間の免疫に影響を及ぼすのか解説します。
腸と免疫の関係
腸は消化器の一つで主に食事から摂取した栄養素や水分を吸収する働きをしています。腸は内臓ですが、口や肛門から外界と繋がっており、常に細菌やウイルスなどの異物に晒されています。
そのため腸は異物から身体を守るため、免疫機能を発達させてきました。
腸の粘膜には免疫細胞であるT細胞やB細胞、IgA抗体を作り出す細胞などが存在し、免疫機能を担っています。
人間の免疫細胞のうち、実に6割から7割が腸に集中して存在していると考えられており、腸が人間の免疫機能にどれだけ大きな影響を与えているかが分かります。
更に、もともと腸には免疫細胞が多く存在し、また異物を取り込み免疫細胞に学習させる仕組みがあるため、人間の免疫に大きな影響を与えると言えます。
腸には「パイエル版」という部分があります。パイエル版にはM細胞と呼ばれる細胞が、腸管内に接する形で存在しています。M細胞は腸管から侵入してきた細菌やウイルスなどを取り込む働きをする細胞です。
M細胞に取り込まれた細菌やウイルスに、T細胞や、B細胞、マクロファージと言った免疫細胞が触れ、「異物である」と認識をします。
異物であることを認識した免疫細胞は、再度それらの細菌やウイルスが体内に侵入すると攻撃するようになります。
腸の免疫機能と腸内フローラ
腸は、それ自体が大きな免疫機能を持っています。免疫機能の発達や維持には腸内に生息する細菌類が重要な役割を果たしていることが、近年明らかになってきました。
例えば無菌状態で飼育したマウスではパイエル版を含む腸管関連リンパ組織の発達がよくないことが分かっています。
また腸や皮膚、口腔など外部と接する場所で生産される「抗菌ペプチド」という物質があります。この物質は細菌が増殖するのを抑制する働きがあります。
しかし無菌状態で飼育したマウスは通常のマウスと比べて、抗菌ペプチドを作る機能が弱いことも確認されています。
人間でも腸の免疫機能は腸内細菌が存在しないと、働きが弱まると考えられています。
だからと言って腸内細菌ならばどんな種類でもよいというわけではありません。
ウェルシュ菌や毒性の大腸菌のような悪玉菌が多い腸内フローラを持つ人は、健康な腸内フローラを持つ人と比べて疲れやすかったり風邪を引きやすかったりします。
このことから免疫機能を維持・活性させるためには、善玉菌が優位な腸内フローラを整えることが重要です。
腸内細菌が生産する毒素と免疫
通常は人間の体の中に菌が入り込むと、その毒素により炎症が起こります。例えば菌が血液内に侵入すると敗血症になる可能性があり、全身性の炎症が生じ、非常に重篤な状態となることもあります。
しかし腸には非常にたくさんの菌が生息しているのにも関わらず、炎症を起こしません。
これは腸に集中して存在する免疫細胞の働きによるためです。
細菌性の毒素は様々ですが、近年生活習慣病に関わるというLPS(リポ多糖)が注目されています。LPSはグラム陰性菌と呼ばれる種類の菌の細胞壁外膜の構成成分であり、人間をはじめ生物の細胞に対して有害な生理活性を示します。
LPSが特に関連しているのが、肥満や糖尿病です。ビフィズス菌を初めとする善玉菌は食物繊維やオリゴ糖をエネルギー源に増殖し、その際に短鎖脂肪酸を生産します。短鎖脂肪酸は抗炎症作用を示し、腸管のバリア機能の一端を担っています。
しかし腸内フローラが乱れ、善玉菌が生産する短鎖脂肪酸の合成量が低下すると、バリア機能が弱まりLPSが腸管から血液内に侵入できるようになってしまいます。
LPSは毒性を示す物質のため、微量であっても全身に慢性的な炎症を発生させます。そうなるとインスリン抵抗性が上がり、血糖値を正常に保つことが難しくなり肥満や糖尿病のリスクとなります。肝障害のリスクを高める可能性もあります。
まだ動物実験の段階ですが、血液中のLPS濃度が高いラットには動脈硬化の症状が重いという結果が出た臨床試験も存在します。このことから腸内フローラが乱れている人は、腸管からLPSが血管内に入り込み、動脈硬化が促進されるのでは、と考えられています。
腸内フローラを改善させるメリット
腸内フローラは人間の健康に非常に大きな影響を与えます。腸内フローラを改善させるメリットには以下のようなものがあります。
- 食欲の抑制
→肥満、糖尿病、そのほかの生活習慣病の予防 - エネルギー代謝向上
→肥満、生活習慣病の予防 - 必須ビタミンの生産
→栄養補給、肌や髪の毛の健康を保つ、疲れにくくなる - ぜん動運動の促進
→便秘予防、大腸がんのリスク低下 - 腸内のpHを酸性に傾ける
→悪玉菌増殖の抑制、大腸がんのリスクの低下 - 腸の免疫細胞の刺激
→免疫力向上、風邪を引きづらくなるなど
腸内フローラを改善することで期待できる作用は様々です。
近年では肥満を初めとする生活習慣病の予防に効果があるのでは、と期待されています。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病は動脈硬化を促進させ、将来的な脳血管疾患、心疾患のリスクを高めます。
脳血管疾患や心疾患は死亡する可能性も高いうえに、後遺症が残るリスクもあります。
また腸内フローラがよい状態だと善玉菌が作り出すビタミンB群などの必須ビタミンが宿主である人間に供給されます。ビタミンB群は皮膚の健康にも関わります。
皮膚は腸と同じく外部に晒されている部位です。皮膚の健康を守ることは、細菌やウイルスの攻撃から身を守ることと同じです。
さらに腸内フローラをよい状態に保つと、腸内の悪玉菌の増殖が自然と抑制されます。悪玉菌はLPSの侵入を許してしまうだけでなく、一酸化炭素やアンモニアなどの有毒な物質を作り出します。
これらも腸管から吸収され、体に有害な働きを示します。肌荒れや慢性的な疲労の原因にもなるので、なんとなく続く心身の不調は腸内フローラの乱れが原因かもしれません。
まとめ
腸は内臓器官の一つですが、常に細菌やウイルス、化学物質などの異物と接してる器官でもあります。そのため、外部の異物に負けないよう非常に免疫機能が発達しました。
人間の免疫細胞のうち、およそ6割から7割が腸に存在すると言われており、どれだけ多くの免疫機能が腸にあるのかが分かります。
また、腸には侵入してきた細菌やウイルスを取り込み、異物として認識させるという機能もあります。この機能により免疫細胞が侵入してきた異物に攻撃をするようになります。
さらに腸は糖尿病や肥満と言った生活習慣病にも関わっています。
腸内フローラの状態が体調に密接に関わるように、免疫機能の働きにも関わると考えられています。暴飲暴食や高タンパク高脂質食は避け、普段から野菜たっぷりの高繊維食を意識して、腸の健康を保ち心身の健康も保つようにしましょう。