EPAとは
EPA(エイコサペンタエン酸)とはn-3系(もしくはω-3系)の不飽和脂肪酸で国際的にはIPAとも呼ばれます。
ヒトは体内で十分な量を合成することが出来ないため、一定量の食事からの摂取が必要不可欠な必須栄養素の一つです。
細胞を形作る細胞膜の構成成分であり、血中に存在することでいわゆる「血液サラサラ作用(血流改善作用)」など様々な機能性を発揮します。
今回はEPAについて詳しく解説していきたいと思います。
目次
EPAの歴史
EPAの研究は1960年代にイヌイットの人たちを対象とした疫学調査ではじまりました。イヌイットの人々は住む地域の気候上、野菜をほとんど食べず魚やアザラシなどの海獣の肉が主食となります。
研究者はイヌイットの人々が植物性の食事を摂取しないにも関わらず心筋梗塞の死亡率が非常に低いということと、出血の際に血が止まりにくいということに注目し血液中にEPAが非常に多いことを突き止めました。
この結果、血液中のEPA濃度が高いと心筋梗塞やその他の循環器系の疾病での死亡率が低いのではと推測され、EPAの血液サラサラ作用に関する研究が始まっていきました。
現在ではEPAは薬品として認可が下りるほど抗血栓作用や血流改善作用が強いことが明らかになっています。
参照:エイコサペンタエン酸(EPA)の作用機序に関する研究/日本人におけるエイコサペンタエン酸(EPA)の食事による摂取と血小板機能に関する疫学的研究
EPAの効果効能
EPAの効果・効能としては以下の通りです。
また抗血栓作用の副次的な作用として
- 動脈硬化予防
- 脳血管疾患(脳梗塞、くも膜下出血など)予防
- 虚血性心疾患予防(狭心症、心筋梗塞など)予防
といった成人病を予防する作用も期待できます。
血栓は主に高血圧や脂質異常症、動脈硬化、喫煙による一酸化炭素などにより血管内に傷が発生することで発生します。
発生した傷は血液を凝固させる血小板とフィブリンの作用によって止血されます。
血小板とフィブリンによって止血されている間に傷は修復されます。
通常、傷の修復が完了すると血小板とフィブリンによって作られた血栓は溶解されますが、脂質異常症であったりコレステロール値が高かったりとしていたりすると血栓を溶解する作用が弱まります。
そのため血栓がいつまでも残り、血流を阻害し、脳梗塞やくも膜下出血、心筋梗塞と言った循環器系の疾患の要因となります。
作用メカニズム
近年の研究でEPAに様々な作用があることが明らかになってきました。
《抗血栓作用》
血栓とは血小板やフィブリンと言った血液凝固に関わる物質がいつまでも溶解せず残ってしまう状態を指します。
また脂質異常症や、コレステロール値が高かいといった、いわゆる「血液ドロドロ」の状態だと、血栓溶解作用が落ち、血栓自体が発生しやすい状態になってしまいます。
EPAには抗血栓作用として2つの効果があります。
1つは血小板凝集抑制作用、もう1つは赤血球を柔らかくする効果です。
《血小板凝集抑制作用》
EPAは摂取すると代謝されトロンボキサンA3や、プロスタグランジンI3という物質に変化します。
このふたつは、血小板の凝集能(凝固する作用の事)を抑制し血液の流動性を高める作用があります。
《赤血球を柔らかくする作用》
赤血球は血液を構成する物質のひとつで、全身に酸素を運搬する役割をしています。
EPAは赤血球の細胞膜の構成に、深く関わっています。血液中のEPA濃度が高いと、EPAが細胞膜の材料として使われ、赤血球を柔らかくします。
赤血球が柔らかくなることにより、たとえ血栓が発生して血液の流れが阻害されてもスムーズに流れることが可能になります。
この2つの作用によりEPAは抗血栓作用を発揮し、動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞と言った疾病を予防してくれます。
《中性脂肪低下作用》
中性脂肪は体内でエネルギー源として重要な役割をしていますが、余分なものは肝臓や脂肪組織に蓄えられてしまいます。その90%以上をトリグリセリドと呼ばれる単純脂質が占めています。
トリグリセリドは脂質のため、通常の状態だと水である血液で運搬することが出来ません。そのため肝臓ではトリグリセリドを体の各部位で利用するためリボタンパク質であるVLDVに変化させ、末梢組織に運搬します。
しかし血液内のVLDLが増加すると、全身にトリグリセリドが運搬され、中性脂肪値が増加してしまいます。EPAは肝臓のVLDL合成作用を阻害する働きをします。
VLDLが減少することにより中性脂肪が減少し、逆に善玉コレステロールであるHDLが増加します。結果、動脈硬化や血栓の発生を抑制する働きも期待されます。
《肥満予防作用》
EPAを摂取すると中性脂肪低下作用により内臓や皮下組織に脂肪が沈着しづらくなる効果があります。
またもう一点、人体には脂肪をため込む「白色脂肪細胞」と脂肪を分解する「褐色脂肪細胞」があるがEPAを摂取することによって白色脂肪細胞も脂肪を分解する働きを発言することが判明しています。
この2点の理由によりEPAの摂取によって肥満予防作用も期待できます。
参照:魚を食べると体脂肪が燃焼するメカニズムを解明 EPAとDHAの効果
《アレルギー軽減作用》
EPAは体内に入り代謝されることで「プロスタグランジンE3」という物質に変化します。この物質はIgE抗体の産生を抑制することによりアレルギーやアトピーを軽減します。
逆に主に肉に含まれるω-6系の脂肪酸の摂取量が増えてしまうとアレルギー原因物質を増やしてしまう「プロスタグランジンE2」や炎症を引き起こすロイコトルエンを増加させてしまいます。
アレルギー軽減作用を期待するには常に肉類より魚類を摂取することを念頭に置くとよいでしょう。
科学的データや報告
グリーンランドの先住民族であるイヌイットは1960年代に行われた疫学調査により心臓病による死亡リスクが非常に低いことが判明していました。
イヌイットはその土地柄、野菜はほとんど食べずに海獣や魚類といった動物性の食事が中心にも関わらず心臓病がデンマーク人と比較してほとんどない原因は海獣や魚類に含まれているEPAのよるものと推測されました。
この研究では高活性抗レトロウイルス療法にて治療を行っているHIV感染者が高トリグリセリド症になりやすいことに着目し、48人の被験者を23人の多価不飽和脂肪酸を投与する群と(DHA460mg、EPA380mg)、25人のプラセボ群に分けて12週間の経過を観察しました。
その結果、多価不飽和脂肪酸を投与された群は有意に血中のトリグリセリド濃度が下がったことが示されました。
京都大学はマウスを対象に魚油が脂肪を蓄積する細胞を脂肪を燃焼する細胞へと形質を変化させるというデータを発表しました。
魚油を添加した飼料を与えたマウス群は別種の脂肪を添加した飼料を与えたマウス群に比べ、体重が5-10%ほど減少し、体脂肪率が15-25%ほど減少した結果になっています。
魚油が消化管内の受容体を活性化し交感神経を活性化させたことにより、脂肪を蓄積する細胞にエネルギー代謝する能力が獲得されたと推測しています。
EPAの摂取がおススメの人
EPAは抗血栓作用が強く、循環器系の疾病に強い予防効果をもっています。
EPAの摂取がおススメな人は「高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病」のどれか一つでも当てはまる人です。
この4つは「死の四重奏」と呼ばれ、それぞれは循環器系の疾病に対して大きなリスクになります。また大きな問題点としてこの4つはそれぞれ併発しやすいという厄介な特徴を持ちます。
どれも大きな自覚症状がないことも特徴の一つで、知らず知らずの間に症状が進んでいたということも珍しくありません。1つ発症するだけでも脳梗塞、心筋梗塞といった循環器系の疾病に大きなリスクになるのに併発するとさらにリスクは高まります。
EPAは循環器系の疾病への予防効果が強いので、どれか一つでも当てはまる人は、検討することをおすすめします。
EPAの種類
EPAは自然界において植物にはほとんど含まれていません。そのため、人が摂取するものはそのほぼすべてが魚類由来のものになっています。現在のところ、EPAを化学的に合成することは出来ず、魚類から抽出する形をとっています。
また人体においてはω-3系の脂肪酸であるαリノレン酸から合成することが可能です。このαリノレン酸はエゴマ油や亜麻種子油に多く含まれています。
しかしαリノレン酸から合成されるEPAだけでは人体に必要な量は賄いきれないと考えられています。
そのためαリノレン酸とは別にEPAを摂取することが非常に重要です。
EPAの効果的な摂取量
EPAの科学的データの項目で述べたように日本の千葉県において虚血性心疾患と脳血管疾患の死亡率はEPAを多く摂取する地域の方が低いという結果が出ています。
この際の調査によるとEPAを多く含む魚を多く食する漁村ではEPA換算で2.6gを一日平均で摂取していたと言われています。
2015年版の厚生労働省による 「日本人の食事摂取基準」策定検討会審議会資料 報告書によるとEPAの一日の摂取目安量については言及されていません。
しかしEPA+DHAを一日900mg摂取している日本人に有意に心筋梗塞の減少が認められたという記述があります。
また欧州食品安全機関(EFSA)では一日5g以上、アメリカ食品医薬品局(FDA)では一日3g以上摂取しても問題ないという基準になっています。
DHAとのバランスを考えEPAは一日最低300mg-500mgほど摂取するのがよいかと思われます。
食品の場合、やはり魚に多く含まれています。
サンマで言うと1匹、マグロで言うと刺身7切れほどで約1gのEPAを摂取できます。調理方法としては刺身で食べるのが一番EPAの摂取効率がよいです。
サバの水煮缶は1缶で1500-2500mgほどのEPAが含有されています。料理にサバの水煮缶を使用するのもおすすめです。
注意したいのがシーチキンの缶詰です。
シーチキンの缶詰めに入っている油は魚油ではなく植物油です。そのため、EPA摂取が目的の場合、違う物から摂取した方が良いでしょう。
安全性と副作用
EPAを魚などの一般食品から摂取する場合、アレルギーなどを除いてほぼ安全であると言われています。
ですが、以下の人は気を付けたほうが良いでしょう。
- 魚に対してアレルギーのある人
- 血小板の働きを抑制するので出血性の疾病(血友病、胃潰瘍、尿路出血など)を罹患している人
- ワーファリンやアスピリンなどの抗血栓薬を服用している人
バターを想像してください、常温でも固形です。他にもラードや牛脂などの脂も常温では固形です。
しかし、魚油は常温よりはるかに低温の水の中でも液体を保ちます。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?
大まかに言うと常温で固体の脂は飽和脂肪酸、液体の油は不飽和脂肪酸という種別に分かれます。
一般的にコレステロールや中性脂肪の値を増やすのが飽和脂肪酸、EPAのように血栓を抑制したり中性脂肪を下げたりするのが不飽和脂肪酸です(あくまで傾向です)。良質の油を摂取する際は不飽和脂肪酸を意識するとよいかもしれません。
余談ですが油と脂という文字には使い分けが存在します。?
油は常温で液体のもの(=不飽和脂肪酸)、脂は常温で固体のもの(=飽和脂肪酸)です。
EPAサプリメントの選び方
EPAのサプリメントで最も重要なことは「成分の酸化対策がしてあること」です。
焼き魚などを放置すると嫌な生臭さが発生しますが、それは油が酸化したことで発生します。
この臭いの原因は強い毒性を持ったアルデヒドや過酸化脂質といった物質です。発がん性があったり動脈硬化の原因となったりする物質です。
魚油は非常に酸化しやすいため、加えて抗酸化物質が含まれていることが非常に重要なポイントになります。
またEPAのサプリメントは天然の魚を原料としているため重金属の残存も重要なポイントになります。魚類は水銀やヒ素、カドミウムといった重金属を生物濃縮しやすいので重金属の残存試験を行っているかどうかはぜひ確認したいポイントです。
EPAサプリの摂取の仕方
EPAは抗血栓作用、中性脂肪低下作用などの機能性サプリメントであると同時に人体にとって必要不可欠なn-3系脂肪酸を補給するベースサプリメントの側面も持ちます。
従って短期的な効果を期待するものではなく長期的に段階を経て効果を発揮させるものとなります。
加齢や健康診断の数値の悪化などが気になる場合にまずは最低1年ほど続けるようにしましょう。翌年の健康診断など数値的に改善傾向を期待できるでしょう。
また、EPAは空腹時だと吸収が弱まるため食後に飲むのがよいでしょう。基本的には飲用するサプリメントの説明に従いましょう。
EPAと合わせて摂りたい成分
ではここでEPAと一緒に摂取したい栄養成分を紹介します。EPAの最も強い作用である抗血栓作用において相乗効果のある成分群です。
ビタミンE
ビタミンEは脂溶性のビタミンで特徴は強い抗酸化力です。EPAは非常に強い抗血栓作用を持つ一方、酸化しやすいという欠点もあります。
ビタミンEはEPAの酸化を防ぎつつ、体内での脂肪の酸化を防ぎ抗血栓作用や動脈硬化予防といった働きをします。
DHA
DHAはEPAと同じくω-3系脂肪酸です。EPAもDHAもどちらも抗血栓作用や中性脂肪低下作用、コレステロールの減少作用を持っていますがEPAは抗血栓作用が強いのに対し、DHAは中性脂肪の低下やコレステロール値の減少に強い力を発揮します。
EPAで血栓を予防し、DHAで血栓の原因を低下させるという相乗効果を期待できます。
EPAサプリメントの注意点
【保存の注意点】保管は冷暗所で行いましょう。必ずしも冷蔵庫でなくても大丈夫です。
【摂取の注意点】サプリメントという形で摂取する場合は注意が必要です。高純度のEPAは医薬品としても認定されているほど抗血栓作用の生理活性の強い物質です。
摂取する際は、必ず用量を守って摂るようにしましょう。
EPAのみを一度に3g以上摂取することによって吐き気や鼻血、軟便などの症状が発生する場合もあります。
1日3g以上の摂取を続けると凝血能の低下により出血しやすくなる可能性もあるため、極端に多く摂取することも避けたほうがよいでしょう。
- 魚に対してアレルギーのある人
- 血小板の働きを抑制するので出血性の疾病(血友病、胃潰瘍、尿路出血など)を罹患している人
- ワーファリンやアスピリンなどの抗血栓薬を服用している人
は飲用の前に医師に相談しましょう。
また糖尿病の人は血糖値コントロールに影響を及ぼす可能性があるため、高血圧治療を行っている人は血圧降下の相乗効果が発生する可能性があるため医師への相談が必要です。
EPAサプリについてのQ&A
DHAもEPAもn-3系脂肪酸であり、魚に多く含まれる油ということは共通しています。
効果も似ているところがあり、どちらも血小板凝集抑制作用や中性脂肪の低下作用があります。
EPAの場合は血小板凝集抑制作用がDHAより強いため俗に言う「血液サラサラ作用」を期待したい時はEPAの方がおすすめです。
ただしサプリメントとして出ている商品はDHA、EPAが一緒に含有されているものがほとんどですし、魚ももちろんどちらも含んでいます。
そのため、分けて考えるのは少々ナンセンスで2つを同時に摂ることで効果的と考えたほうがよいかもしれません。
EPAは脳血管関門を通ることは出来ません。脳血管関門を通れるのはDHAの方になります。
EPAは特定の部位で働くというより血流内に存在することで主に全身の血流改善に重点をおいて働きます。
まとめ
EPAはn-3系脂肪酸と呼ばれる、人体にとって必要な必須栄養素です。
魚に多く含まれる油で、作用としては血小板凝集抑制作用や中性脂肪の低下が期待できます。
血液サラサラや生活習慣病予防に効果的な成分です。
血管系の病気は現代社会で死因の上位を占める疾病です。EPAをうまく活用して対策してみましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。