冷え性とは
特に女性が悩まされる症状である冷え性。最近は男性でも冷え性を自覚する人が増えてきています。よく勘違いされやすいのが「低体温」とは別物ということです。
身体に「冷え」を感じるということは共通していますが、低体温は基礎代謝の低下やエネルギー不足、酷寒環境などで体の中心の深部体温自体が低下してしまう状態を指します。対照的に、冷え性の場合は深部体温の低下は認められないことがほとんどです。
冷え性は血行不良によって体の中心で温められた血液が手足といった末端部位にうまく届かないことで発生します。
目次
冷え性の症状とは
冷え症は日常的に薄ら寒い不快な感覚に襲われます。それだけでも日常生活の支障になりますが、
- 頭痛
- 不眠
- 便秘
- めまい
- 関節の痛み
などを併発する可能性もあります。
冷え性になりやすい人とは
冷え性は熱の生産、血流やストレスに影響を受けて生じます。冷え性は、以下に挙げる人がなりやすいでしょう。
- 貧血気味の人
- 運動不足の人
- 生活リズムが崩れている人
- ダイエット中の人
- 肥満の人
- 食事を抜きがちの人
特に貧血は冷え性と相関関係があり、どちらか一方が悪化するともう一方も同じく悪化することが多いので注意が必要です。
冷え性セルフチェック
冷え性は、体の中心部での熱の生産は行われているのに、その熱が末端部位にうまく運搬されないことで引き起こされます。そのため手足のみが特に冷えるという人は冷え性の可能性が高いです。また血液の流れがスムーズでない可能性も同時に高いので、以下に当てはまる人も注意が必要です。
自律神経の調整や体温の調節には汗をかくことが重要なので、汗をかく習慣のない人は冷え性の可能性が高くなります。
冷え性の原因
冷え性には様々な原因があります。どのような原因があるか、代表的なものを紹介していきます。
筋肉量が少ないこと
女性が男性に比べて冷え性が多い理由は主に筋肉量の差が原因です。筋肉は熱を作り出す役割があります。熱を生み出すおおもとが少ないことで冷え性を引き起こしやすくなります。
血流の悪化
筋肉で生産された熱を全身に届けるのは血液の役割です。血流が悪化することで、末端部位に熱が行き渡らなくなり、冷え性を引き起こします。貧血、低血圧、肥満、中性脂肪値が高い人などが当てはまります。
自律神経の乱れ
人体は、夏の暑い時期には血管を拡張してたくさんの血液を流し、体温を発散させたり汗をたくさんかいたりして熱を逃がしたります。逆に冬の寒い時期には、血管を収縮させて体内の熱を外に発散させないようにしたりして、体温を一定に保とうとします。
このように、人体には体温を一定に調整する働きがあり、それを司るのが自律神経です。暑さ寒さを皮膚が感じると、自律神経から全身に、体温を一定に保つように命令が送られます。結果、上述したように血流の流れに変化が現れて体温が一定に保たれます。
しかし、不規則な生活やストレス、更年期などの理由により自律神経の働きに支障が出ると、血流が悪化して冷え性を引き起こします。
冷え性を放置するとどんな危険性がある?
冷え性は血液の流れに問題がある可能性が高いです。冷え性は血管の弾力性が失われる「動脈硬化」が原因となっている可能性もあり、知らず知らずの間に心筋梗塞や脳梗塞といった循環器系のリスクになる場合もあります。
ですので、「たかが冷え性」と放置せず、つらい症状がある場合はしっかりとケアしていきましょう。
冷え性の予防・改善に役立つ食品・成分
冷え性を改善するためには、しっかりと基礎代謝を上げ、血流をよくすることが重要です。冷え性に悩む人にぜひお薦めしたい栄養素を紹介します。
ショウガオール、ジンゲロン
ショウガオール、ジンゲロンは、どちらもショウガに含まれる辛み成分のもとの物質です。これらの成分を摂取すると、血管が拡張する作用、及びエネルギー消費量を増加する作用が生じます。このため熱を効率的に生産できるようになり、生産された熱を全身にスムーズに送ることが可能となり、冷え性の改善に効果を発揮します。
▶︎生姜抽出物の経口摂取が冷え性の人のエネルギー消費等に及ぼす効果
タンパク質
冷え性の予防改善には、筋力をしっかりと保つことが有効です。熱を生産する筋肉は、タンパク質が材料になります。良質なタンパク質をしっかり食べて筋肉量を減らさないようにしましょう。
カロリーが気になる人は鳥のささ身や大豆や大豆食品、イカなど脂肪分の少ない食品を食べるとよいでしょう。
タンパク質の一日の摂取目安量は体重×1~1.5gほど。体重が60kgの人ならば60~90gほどの摂取を目安としましょう。例えば毎食白米を1膳食べて、一日1個の卵を食べる人だと、白米4g×3+卵6gの18gのタンパク質を必ず摂取することになります。
1日で残りの約40gを摂取することを心掛けるとよいでしょう。肉は100gでだいたいタンパク質20g、豆腐は半丁で10gほど摂取できます。
ビタミンB群
冷え性の改善には体内での熱の生産が不可欠ですが、炭水化物、タンパク質、脂質といったエネルギー源がなければ熱の生産は行えません。ビタミンB群はこのようなエネルギー源の代謝(燃焼)に深く関わっており、足りていればエネルギー生産を促進させてくれます。
ビタミンB群を摂取するときにおすすめの食品はレバーです。非常に多くのビタミンB群を含有し、鉄分や亜鉛といった積極的に摂取したいミネラルも豊富に含んでいます。ビタミンB群を摂取することによってエネルギーが効率よく生産され、冷え性による末端の冷えを軽減する効果が期待できます。
亜鉛がもつ効果効能について、詳しくはこちらで解説しています。▶亜鉛の効果と効能 味覚障害や免疫活性化・育毛・精力アップなど
硫化アリル
硫化アリルはニンニクやニラなどに多く含まれる物質です。体内でビタミンB誘導体(ビタミンB1の効果を長持ちさせる物質)として働くため、エネルギー生産をより促進することが可能です。
ニンニクがもつ効果効能について、詳しくはこちらで解説しています。▶ニンニクの効果と効能 疲労回復や滋養強壮・コレステロール値の改善など
ビタミンE
ビタミンEは、摂取すると末梢血管を拡張し、血行を改善する効果があります。また強力な抗酸化作用もあり、血中のコレステロールの酸化を防ぎ、ドロドロ血液を予防する作用ももっています。ビタミンEは魚卵やナッツに多く含まれています。特にナッツは積極的にとりたい良質な油も多く含まれているので、おやつにナッツを取り入れるとよいでしょう。
またビタミンEは目安量と上限量の間に大きな幅があり、たくさん摂取しても1日の上限量には達しにくい成分です。例えば成人女性なら1日の目安量は6mgですが、上限量は700mgもあります。そのため、サプリメントで積極的に摂取するのもおすすめです。(参照:厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2015年版)概要 P18より)
十分にビタミンEを摂取すると、末梢血管への血流が改善され、末端部位の冷えが軽減される効果が期待できます。ビタミンEがもつ効果効能について、詳しくはこちらで解説しています。▶ビタミンEの効果と効能
ルチン、ビタミンC
ルチンは、そばに含まれる「ビタミンP」とも呼ばれるフラボノイドの一種です。ルチンは体内でビタミンCとともに毛細血管を強化する作用があります。
ルチンには、末端の毛細血管を強化することによって血液の運搬を円滑にする作用、また血流自体を向上させる効果もあることが分かっています。そのため、冷え性に悩む人がルチンを含む蕎麦茶などを飲むと、血流が改善されて熱が末端にも行き届き、冷え性の症状が軽減される効果が期待できます。
冷え性の予防・改善・対処法を医師がアドバイス
冷え性を改善するための自宅でできるケアの方法をお伝えします。
筋力トレーニング
筋肉は熱を生産します。そのため筋力トレーニングを行い、適切に筋肉をつけることで冷えを予防することが可能です。おススメの筋トレ方法は「スクワット」です。
下半身の筋肉は全身の筋肉の2/3を占めています。下半身をまんべんなく鍛えることのできるスクワットを行うことで効率的に筋肉量を増やせ、冷えを改善することが可能です。スクワットがつらい場合は30分程度のウォーキングを続けることでも十分に効果があります。
3食しっかりと食べる
体重増加を気にして食事量を減らすと、脂肪ではなくまず筋肉がアミノ酸に分解されエネルギーとして使われていきます。そうなると基礎代謝が下がり冷えやすい体になっていきます。
ダイエットを重視しすぎて低カロリーの食生活を続け、筋肉量と基礎代謝量を失うより三食しっかり食べることで基礎代謝も上がり熱も生産しやすい体質になることを目指しましょう。
半身浴を行う
熱いお風呂にサッと入るのではなく38-40度程度のぬるめのお風呂に30-60分ほど半身浴をすることで末梢の血管が拡張され血流改善に効果があります。
しっかりと末梢血管に刺激し体温調整をすることで自律神経の乱れを改善することができます。
冷え性がつらいときの医療機関への受診について
冷え性がつらい場合は、病院にて医師に診察を受けることが可能です。受診するといい科は、内科、婦人科などです。
ただし冷え性は西洋医学的には病気とみなされていないため、診察を受ける病院で対応してもらえるかチェックする必要があります。
逆に、東洋医学の考えでは「冷え性は治療するべきもの」とみなされているため、東洋医学に力を入れている病院で診察を受けるのもよいでしょう。
もし自分で病院を探す場合は、Google、Yahooといった検索エンジンで「冷え性 病院 ○○(地名)」と検索すれば、冷え性の診察が可能な病院が見つかるはずです。
冷え性にまつわるQ&A
冷え性は疾病ではないので明確な基準はありません。あくまで主観的なものとなるので各々の判断に任されることになります。
冷え性は西洋医学においては病気とされていませんが、東洋医学においては未病(ミビョウ・顕在化していない病気)と捉え、治療するべきものという認識になっていて、漢方薬を使用して積極的な治療を行います。
冷え性の治療に使われる漢方薬は、代表的なものでは「苓姜朮甘湯(リョウキョウジュッカントウ)」 というものがあります。
60代男性の冷え性の原因として、加齢によって熱を生産する筋肉量が減少している可能性が考えられます。加齢とともに年々筋肉量は減り、同時に筋肉がつきにくい体質となるため、まずは運動習慣をつけることから始めましょう。
またしっかりとタンパク質を摂取することも重要です。豆腐や白米による植物性のタンパク質だけではなく、アミノ酸スコアが高い卵や肉といった動物性のタンパク質もしっかりと摂取することが冷え性の改善に必要です。
若年~中年の方の冷え性の場合、自律神経の乱れが原因のものが多いです。また女性は月経前症候群(PMS)によりホルモンバランスが崩れ、男性よりも自律神経が乱れやすくなります。
そのため、若年〜中年の方で冷え性に悩んでいる場合は、自律神経の調整をするとよいでしょう。自律神経のバランスは、しっかりと体温調整を行うことでとれていくので、
- 空調の整っている場所に居すぎない
- 運動、入浴などでしっかり汗をかく
- ショウガや肉類、香辛料などの体を温める食品を摂取する
などといった対策が効果的です。
また、40代女性の冷え性では、筋肉量が少ないことが原因になっている可能性もありますので、上記の体温調整トレーニングに加え、筋力トレーニングもあわせて行うとより効果的でしょう。
まとめ
冷え性対策のコツは、熱を生産する筋肉をしっかり保つことです。ショウガなど体を温める食材の力を借りながら、体を動かす習慣をつけて改善していきましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医、サプリメントアドバイザー。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。