いびきが発生するメカニズム
自分では気づきにくいいびき。
同じ空間で眠る人に指摘してはじめて気づくことも多いのではないでしょうか?一緒に眠る人にとっては大きないびきはとてもストレスになります。
それだけではなく、本人にとっても思わぬ健康被害を招くことも。そもそもいびきとはなんなのか、原因と対策を解説します。
目次
寝ている時の大きな騒音 いびきはなぜ発生するの?
夜、就寝中は心身を休めるために全身の筋肉が弛緩した状態となります。口腔内の筋肉が弛緩することで舌が喉の方向へ落ちやすくなってしまいます。舌によって気道が狭まることで空気の通り道が狭くなり、まるで笛のように音が発生します。これがいびきです。
いびきには、
- 鼻づまりや飲酒、疲労などの一時的な原因により発生するもの
- 「睡眠時無呼吸症候群」を伴う継続的なもの
があります。
一時的な原因により発生するいびきは、鼻づまりが治ったりアルコールが代謝されたり、十分に休息を取ることで改善されます。一方で、睡眠時無呼吸症候群を伴ういびきは慢性的に発生することが多く、治療や対策を施さないと改善されない傾向にあります。
睡眠時無呼吸症候群およびそれを伴ういびきには、以下のような特徴があります。
- いびきが慢性的に継続する
- いびきが大きい
- 就寝中いびきといびきが止まるのを繰り返す
- 就寝中、呼吸が止まり苦しくて目が覚めてしまう
- 起きた後口が乾いている、臭う
- 十分に寝たはずなのに疲れが取れない
- すっきりと起きられない
- 集中力に欠ける
- 日中の眠気が強い
「睡眠時無呼吸症候群」とは、その名の通り、睡眠時に呼吸が止まってしまう病気です。無呼吸は「10秒間以上の気流停止」が発生することと定義され、その無呼吸が1晩に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上あれば睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠は心身を休めるために重要です。しかし睡眠時無呼吸症候群が発生することにより、睡眠の質が低下したり睡眠中に目が覚めてしまったりします。翌日の疲労や集中力の欠如、日中の強い眠気に繋がり仕事や勉強に支障を来します。
また、呼吸が止まることで血管や心臓などの循環器に負担を掛け、狭心症や心筋梗塞のリスクを高めてしまいます。日本人は高血圧や脂質異常症により循環器に負担が日常的にかかっていることが多いため、睡眠時無呼吸症候群が発生することでより大きな負担がかかってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群を改善すれば、睡眠時無呼吸症候群に伴ういびきも改善される傾向にあるため、健康上の理由としてもいびき改善の理由としても治療することが重要です。
睡眠時無呼吸症候群でないのにいびきが続くときは?
いびきは体型や体質によって発生しやすくなる場合はあります。睡眠時無呼吸症候群でないのにも関わらずいびきが慢性的に続く場合は、体型や体質によるいびきかもしれません。
- 首が太く短い
- 顎が小さい
- 口蓋垂(のどちんこ)が長い
- 舌が大きい
といった身体的特徴を持っている人はいびきをかきやすい体質と言えます。睡眠時無呼吸症候群と異なり、無呼吸状態は発生しないため健康上の害はありません。しかし騒音の面で家族などに迷惑がかかるのならば、次で解説する方法を試し、改善した方が良いでしょう。
睡眠時無呼吸症候群のいびきのケアと治療の方法
睡眠時無呼吸症候群によるいびきを改善するために日常的なケアを行いましょう。これらの方法は通常のいびきに対しても一定の効果があるため、睡眠時無呼吸症候群ではない人のいびきの悩みにも有効です。
生活習慣による改善方法
いびきを生活習慣によって改善させる方法はいくつかあります。これらは単独で行うのではなく、複数の方法を組み合わせることでより効果が高まります。
適正体重を保つ
いびきが発生する原因はm就寝中の筋肉の弛緩による気道の狭窄(きょうさく:狭まること)です。肥満だと気道が脂肪によって狭くなりやすく、いびきが発生しやすくなります。肥満の解消は睡眠時無呼吸症候群のいびきと通常のいびき、そのどちらの改善にも効果的です。
眠るときは横向きになる
いびきは就寝中に筋肉が弛緩することによって舌が支えきれなくなり、喉の方向へ落ちて気道が狭窄することで発生します。眠る際に仰向けではなく横向きで寝ることで舌が気道を狭窄することなくいびきの改善に効果的です。横向きに寝ることは睡眠時無呼吸症候群のいびきと通常のいびきのどちらにも有効です。
アルコールは控える
アルコールを摂取すると筋肉は弛緩します。睡眠中の筋肉の弛緩に加えてさらに舌の筋肉を支えられなくなるため、気道を狭窄しやすくなってしまいます。またアルコールによる酔いは脳の機能の一部が麻痺することによって発生するため、睡眠時無呼吸症候群を発生させやすくなってしまいます。
適量ならば問題ないですが、泥酔するほどの過度の飲酒や、日常的な飲酒は避けるようにしましょう。
鼻呼吸の癖をつける
口呼吸は鼻呼吸よりも気道を狭窄させます。そのため鼻呼吸の癖をつけ、睡眠中も鼻で呼吸できるようにするといびきの改善に有効でしょう。この方法は睡眠時無呼吸症候群のいびきと通常のいびき、そのどちらにも効果があります。
ストレスを発散する
人間はストレスを感じると交感神経が優位になります。交感神経は日中の活動や興奮に関わる自律神経で、活発に動くために血管を収縮させ血圧を上昇させる働きをします。
通常、睡眠時は副交感神経が優位になり血管を拡張させ血圧を低下させます。しかしストレスを感じることで睡眠中も血管が収縮し、血圧が高くなることで酸素の要求量が増加し、より空気を多く取りこめる口呼吸を行いやすくなってしまいます。ストレスをこまめに発散することによって睡眠中の副交感神経を優位にしていびきの改善に効果があるでしょう。
適切な枕を使用する
まくらが高すぎたり低すぎたりすると首が曲がってしまい気道が狭くなってしまいます。高すぎず低すぎず適切な高さのまくらを使用することが重要です。まくらの適切な高さは人それぞれで異なりますが以下のポイントに気を付けるとよいでしょう。
- 頭と身体が一直線になり、気道を確保できること
- 反発性のある素材の枕を選ぶこと
- 清潔に使用を続けられるものを選ぶこと
多少、高さに違和感がある場合はタオルなどを敷いて調整するとよいでしょう。
サプリメントによる対策
いびきの根本的な治療にはなりませんが、サプリメントを利用して改善することは可能です。特におすすめしたいのがコエンザイムQ10が含まれているサプリメントです。
コエンザイムQ10は体内でエネルギー代謝を助け、疲労を回復させる作用があります。いびきは睡眠中に舌が喉の方向に落ちることで気道が狭窄され発生します。疲労が回復することで、舌を支える筋肉が必要以上に弛緩するのを防ぎ、気道を確保しいびきを改善します。
また、いびきにはストレスも大きく関わっています。ストレスを軽減させる作用のあるGABAやテアニンといった成分もおすすめです。これらはストレスを軽減させるほか、高ぶった神経を鎮静させる作用も持っています。
医療機関でのいびきの治療
いびきは通常、疲労やストレス、飲酒など一過性の原因に起因するため、十分な休息を取れば治まります。しかしいびきが継続する場合は、睡眠時無呼吸症候群によるいびきの可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群は大きな疲労や眠気、QOLの低下につながる病気であるため、治療が必要です。いびきや睡眠時無呼吸症候群の診療科は第一に候補に挙がるのは、耳鼻咽喉科です。
耳鼻咽喉科では、気道に関する疾患の治療を行っているため、受診すればいびきの改善に有効でしょう。そのほか「睡眠外来」「睡眠センター」「いびき外来」などの診療科を設置している医療機関もおすすめです。医療機関での睡眠時無呼吸症候群の治療には次のような方法があります。
マウスピースによる治療
軽度から中度な睡眠時無呼吸症候群の治療にはマウスピースが向いています。睡眠時無呼吸症候群だけではなく通常のいびきにも効果があります。スポーツなどの際に着用する一般的なマウスピースではなく、いびきや睡眠時無呼吸症候群を治療するための専用のマウスピースです。スリープスプリントとも呼ばれます。
治療用のマウスピースを着用することで下あごを前の方向に突き出す効果が現れます。下あごが前に突き出されることで気道が確保され、いびきや睡眠時無呼吸症候群が改善されます。
睡眠時無呼吸症候群の診断を受けた場合は健康保険を適用して治療用のマウスピースを作ることができます。残念ながら通常のいびきでは保険が効きません。保険が適用されると、およそ1万円から3万円程度で作成することができます。
CPAP治療
CPAPは「Continuous Positibe Airway Pressure」という機器を利用して睡眠時無呼吸症候群を治療する方法です。CPAP装置から就寝中、常に空気を送り続けることで気道を確保しておき、治療を施します。
CPAP装置は基本的に医療機関からレンタルすることになります。睡眠時無呼吸症候群の治療法としては日本国内や欧米で最も普及しています。睡眠時無呼吸症候群の診断があればCPAP装置は保険を適用してレンタルすることができます。費用は1か月で5,000円程度です。
いびきの治し方によくあるQ&A
いびきはどうしても自分では気づきづらいものです。もし自分のいびきの度合いを知りたいならば携帯電話に備え付けられているレコーダー機能を使ってみましょう。スマートフォン並の容量があれば一晩の録音を十分にできるはずです。また人に指摘されている場合はおそらく本当にうるさいと考えたほうがよいでしょう。自分で確認するまでもなく、対策や医療機関での相談を行ってもよいでしょう。
単純ないびきに関しては健康保険を適用することができません。ただし「睡眠時無呼吸症候群」と診断された場合は健康保険を適用して治療を行うことが可能です。
睡眠時無呼吸症候群は以下の症状が頻繁に現れるようならば疑ったほうがよいでしょう。
・大きないびきを指摘される
・夜中に何度も目が覚めてしまう
・目覚めが悪い
・翌日に眠気が残る、頭がすっきりせず集中力に欠ける
睡眠時無呼吸症候群は保険を適用して治療することができます。このような症状に悩んでいるならば医療機関での診断を検討しましょう。
いびき自体は遺伝しないと考えられています。しかしいびきを発生させやすくする体型や体質は遺伝する可能性があります。特に太りやすかったり舌が大きかったり顎が小さかったりといった身体的特徴は遺伝する可能性があり、いびきに大きく関わります。
いびきがうるさい人は総じて口で呼吸している傾向にあります。口で呼吸を行うと口腔内が乾燥して悪臭の原因となる細菌が繁殖するようになります。そのためいびきがうるさい人は口臭が強くなってしまう傾向があるでしょう。起きている間になるべく鼻で呼吸する癖をつけると寝ている間の口呼吸の頻度を少なくすることができます。
いびき対策のまとめ
いびきは睡眠時に全身の筋肉が弛緩して、舌が喉に落ちることで気道が狭窄することで発生します。疲労やストレス、飲酒など一時的な原因によるいびきならば十分に休養を取ればすぐに収まります。しかし睡眠時無呼吸症候群という病気が原因のいびきはなかなか治らず慢性化します。また日中の強い眠気や集中力の欠如、循環器系の疾患のリスクを招くため治療をしたほうがよいでしょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医、サプリメントアドバイザー。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。