骨がスカスカに?とても怖い骨粗鬆症
骨粗鬆症は骨がスカスカに骨が弱くなることで骨折や骨の変形を引き起こす病気です。
たかが骨折と思っても高齢期に差し掛かってきたら致命的なことになることもあります。
骨粗鬆症が起きる原因を把握して予防できるようにしましょう。
目次
骨粗鬆症って?よく聞けれどどういう病気なの?
骨粗鬆症の「鬆(す)」とは「芯にできる隙間」のことを指します。骨粗鬆症はその名が示す通り、骨にスカスカとした隙間ができることで骨が弱くなってしまう病気です。骨粗鬆症自体には痛みや自覚できる症状はほとんどありませんが、骨粗鬆症を発症すると骨折しやすくなったり背骨が曲がりやすくなったり変形しやすくなったりします。
特に高齢期の骨折は治癒が遅く、そのまま寝たきりになってしまう可能性が高まります。骨粗鬆症自体に症状がないからといって放置をしてしまうと、取り返しのつかないことになる場合があります。
骨粗鬆症かどうかを知る重要な指標として骨密度と骨質があります。骨密度は骨の密度であり、そのまま骨量に繋がります。骨質は骨の素材の質と骨の微細構造の状態のことを指します。骨はカルシウムやリンといった無機質のほか、20%ほどをコラーゲンなどの有機物が占めています。骨質は、カルシウムだけではなく骨を構成するその他全ての成分を総合的に鑑みた質のことです。
微細構造はその名の通り、骨の構造です。骨の構造が脆弱なものになれば骨折などをしやすくなります。以前は骨粗鬆症は骨密度が重要と考えられてきましたが、現在では骨質も重視されるようになっています。
以下のチェックに複数当てはまる人は知らない間に骨粗鬆症予備軍になっているかもしれません。記事後半の予防方法を早速実践してみてください。
- 1:若いころに比べ身長が縮んだ気がする
- 2:背中や腰が曲がってきた
- 3:些細なことで骨折をした
- 4:牛乳、大豆製品、小魚などカルシウム源をあまり食べない
- 5:日光にあまり当たらない
- 6:あまり運動をしない
- 7:どちらかというと痩せ型である
- 8:喫煙をする
- 9:大量に飲酒をする
- 10:(女性の場合)閉経した
- 11:家族に骨粗鬆症の人がいる
- 12:消化器の手術を受けたことがある
なぜこれらに当てはまると骨粗鬆症になりやすいのかに触れていきましょう。
骨粗鬆症を引き起こす原因とは?
なぜ上記のチェックに当てはまると骨粗鬆症になりやすくなるのか解説をしていきます。
①身長の縮み、②背中・腰が曲がる、③些細なことで骨折した
1:若いころに比べ身長が縮んだ気がする、2:背中や腰が曲がってきた、3:些細なことで骨折をしたの3つに当てはまる場合、骨粗鬆症の症状が進行しているかもしれません。骨粗鬆症は骨がスカスカになり弱くなります。骨同士がぶつかり合うことで脊椎の椎体が潰れてしまったり、骨が重力に耐えきれなくなったり、軽い衝撃で折れてしまうことでこれらの症状が現れます。こういった症状が現れる場合、一度病院で検査をしてもらったほうがよいでしょう。
④牛乳・大豆製品・小魚などをあまり食べない
骨の材料はカルシウムやマグネシウム、リンといった無機質とコラーゲンなどの有機物です。なかでも特にカルシウムは不足しやすい栄養であるため、これらのカルシウムを豊富に含む食品をあまり食べないと慢性的な不足状態の可能性があります。
⑤日光に当たらない、⑥あまり運動をしない
日光と運動は骨の新陳代謝のために重要です。皮膚が日光を浴びることでカルシウムを骨に定着させる働きをするビタミンDが合成されます。また運動を行うことで骨の微細構造が破壊されますが、すぐに再生することでより強固なものになります。日光と運動が不足することでこれらの働きが行われず、骨が弱くなる可能性があります。
⑦痩せ型、⑧喫煙、⑨飲酒
BMI指数が低いと骨密度も低い傾向にあります。また、低体重であると転倒の際に骨折してしまうリスクが大きくなります。大量の飲酒をしている人は骨粗鬆症のリスクが1.4~1.7倍、喫煙の習慣がある人は骨粗鬆症のリスクが1.3~1.8倍高いという統計があります。
⑩閉経した
女性ホルモンであるエストロゲンは骨からカルシウムが溶けだすのを抑制する働きがあります。閉経するとエストロゲンの分泌量が減少し、カルシウムが骨から溶け出しやすくなってしまうため、骨粗鬆症のリスクが高まります。
⑪家族に骨粗鬆症の人がいる
骨粗鬆症に遺伝的な要因があるかどうかは明確に解明されていません。しかし家族に骨粗鬆症の人がいる場合、骨粗鬆症を発症するリスクが高まる統計があります。
⑫消化器の手術を受けたことがある
消化器の手術を受けることで栄養の吸収率が下がる結果、カルシウムを十分に吸収できなくなることで骨粗鬆症を発症するリスクが高まります。
骨粗鬆症を放置するとどんな危険が?
骨粗鬆症が引き起こす最も重大な症状は「骨折」です。たかが骨折と思うかもしれませんが、新陳代謝が衰えていく高齢期の骨折は寝たきりのリスクを非常に高めます。特に骨粗鬆症を発症した場合、太もも部の骨が折れることが多く身動きが取れなくなるため家族や配偶者による介護が必要な状態になることもあります。またくしゃみや重いものを持つといったなんでもないことでも骨折を引き起こすこともあります。
骨粗鬆症の予防のためにしたいこと
骨粗鬆症を予防するためには食事からのカルシウムの摂取が重要です。しかしそれだけではなく生活習慣や運動習慣の改善も重要になります。骨粗鬆症を予防するためにしたいことを解説していきます。
食事、栄養成分による対策
骨を形成するのに重要な栄養素はカルシウム、マグネシウム、ビタミンDです。これらの栄養素について解説していきます。
カルシウム
カルシウムは体内に存在する量の99%が骨に存在しています。骨として姿勢や骨格を維持する役割を果たします。残りの1%は細胞内に存在して神経機能の調整や浸透圧の調整など様々な働きを行っています。カルシウムが慢性的に不足すると骨粗鬆症を発症するリスクが高まります。
カルシウムは吸収率があまりいいミネラルではないため、吸収率を促進させる成分と同時に摂取することも重要です。カルシウムの吸収率を促進させる成分にはCPP(牛乳に含まれるタンパク質)やビタミンC、クエン酸などがあります。また逆に吸収率を下げてしまう成分としてはシュウ酸(ホウレンソウに多い)、フィチン酸(豆や穀類に多い)、食物繊維などがあります。
カルシウムの一日の必要量と多く含まれる食品は以下になります。
カルシウムの1日の必要量(単位:mg)
男性 | 女性 | |||||
必要量 | 推奨量 | 耐用上限量 | 必要量 | 推奨量 | 耐用上限量 | |
12-14(歳) | 850 | 1000 | 700 | 800 | ||
15-17(歳) | 650 | 800 | 550 | 650 | ||
18-29(歳) | 650 | 800 | 2500 | 550 | 650 | 2500 |
30-49(歳) | 550 | 650 | 2500 | 550 | 650 | 2500 |
50-69(歳) | 600 | 700 | 2500 | 550 | 650 | 2500 |
70以上(歳) | 600 | 700 | 2500 | 500 | 650 | 2500 |
カルシウムを多く含む食品
食品名 | 分量 | カルシウムの量 |
牛乳 | 1カップ(200ml) | 231mg |
ヨーグルト | 半カップ(105g) | 126mg |
プロセスチーズ | 1片(20g) | 126mg |
干しエビ | 大さじ1(8g) | 586mg |
煮干し | 5尾(10g) | 220mg |
水菜 | 1束(150g) | 315mg |
小松菜 | 半束(120g) | 220mg |
がんもどき | 大き目1個(100g) | 270mg |
木綿豆腐 | 半丁(150g) | 180mg |
納豆 | 1パック(50g) | 45mg |
マグネシウム
マグネシウムは体内の存在する量の60%ほどが骨に存在しています。カルシウムやリンとともに骨を形成する材料となる成分で、そのほかの40%ほどは体内の300を超える酵素を補助する役割を果たしています。カルシウムとともにマグネシウムは日本人に不足しやすい栄養素であるため、意識的な摂取が必要になります。
<マグネシウムの1日の摂取量(単位:mg)>
男性 | 女性 | |||
推定平均必要量 | 推奨量 | 推定平均必要量 | 推奨量 | |
12-14(歳) | 250 | 290 | 240 | 290 |
15-17(歳) | 300 | 360 | 260 | 310 |
18-29(歳) | 280 | 340 | 230 | 270 |
30-49(歳) | 310 | 370 | 240 | 290 |
50-69(歳) | 290 | 350 | 240 | 290 |
70以上(歳) | 270 | 320 | 220 | 270 |
妊婦 | +30 | +40 |
<マグネシウムの多い食品>
食品名 | 分量 | マグネシウムの量 |
がんもどき | 大き目1個(100g) | 98mg |
油揚げ | 大1枚(40g) | 53mg |
納豆 | 1パック(50g) | 50mg |
アーモンド | 25~30粒(30g) | 93mg |
カシューナッツ | 20粒(30g) | 72mg |
干しヒジキ | 10g | 62mg |
乾燥ワカメ | 5g | 55mg |
ビタミンD
ビタミンDは摂取すると肝臓で活性型へと変化し、小腸でカルシウムとリンの吸収率を高める働きをします。また血中のカルシウム濃度は筋肉の働きや神経伝達に大きく関わるため、濃度を調整する働きも行います。欠乏すると骨粗鬆症を発症しやすくなりますが、逆に過剰になりすぎると高カルシウム血症という血中カルシウム濃度が高くなりすぎる病気を発症します。食品からだけではなく、日光に当たることで皮膚から合成されるホルモンなのでバランスに気を付けるようにしましょう。
<ビタミンDの1日の摂取量(単位:μg)>
男性 | 女性 | |||
目安量 | 耐用上限量 | 目安量 | 耐用上限量 | |
12-14(歳) | 5.5 | 80 | 5.5 | 80 |
15-17(歳) | 6 | 90 | 6 | 90 |
18-29(歳) | 5.5 | 100 | 5.5 | 100 |
30-49(歳) | 5.5 | 100 | 5.5 | 100 |
50-69(歳) | 5.5 | 100 | 5.5 | 100 |
70以上(歳) | 5.5 | 100 | 5.5 | 100 |
<ビタミンDの多い食品>
食品名 | 分量 | ビタミンDの量 |
あんきも | 1切れ(50g) | 55μg |
紅サケ | 1切れ(100g) | 33μg |
塩サケ | 1切れ(100g) | 22μg |
サンマ | 1尾(150g) | 20μg |
乾燥きくらげ | 3個(1g) | 4.4μg |
そのほか骨の形成にはコラーゲンが必要ですが、タンパク質を十分に摂取していれば不足することはないでしょう。
カルシウムサプリメントを利用する
カルシウムは体内での吸収率があまり良くないミネラルです。牛乳をはじめとした乳製品の吸収率が40%程度、小魚の吸収率が33%程度、大豆・野菜類が20%程度と考えられています。そのため不足しやすい栄養素です。カルシウム不足を補うためにサプリメントを利用するのもおすすめの方法です。カルシウムサプリメントを利用する際のポイントは以下になります。
卵殻カルシウムが原料として使われていること
卵殻カルシウムは微細な孔がたくさん開いている構造となっています。微細な孔が開いているため通常の炭酸カルシウムより胃酸に触れる表面積が大きいため吸収率がよくなっています。同時に卵殻カルシウムを摂取することで骨から血液にカルシウムが溶けだすのを防ぐ作用があることも明らかになっています。
CPPが含まれていること
CPPはカゼインホスホペプチドという牛乳由来のタンパク質です。CPPをカルシウムと同時に摂取することで吸収率が1.7倍に上昇するという実験結果も存在しています。同時にビタミンDやビタミンKなどのカルシウムの吸収を促進させたり、骨への定着を促進させたりする栄養素も含まれているとよいでしょう。
カルシウムとマグネシウムが2:1の割合で含まれていること
カルシウムとマグネシウムはそれぞれ2:1の割合で摂取すると骨にとって理想的な働きをします。カルシウムとマグネシウムの含有量を確認してその割合になっているものを選ぶとよいでしょう。カルシウムが100mgならマグネシウムは50mg、カルシウムが300mgならマグネシウムは150mgです。
定期的に運動を行う
骨に縦方向への刺激が加わると、微量の電流が流れ強度が増すと考えられています。若いころ運動習慣があった人よりなかった人のほうが骨粗鬆症になりやすいという統計も報告されています。そのため、骨粗鬆症の予防のため、食生活だけではなく運動習慣の改善もするようにしたほうがよいでしょう。
特に外でのウォーキングやジョギングをおすすめします。ウォーキングやジョギングは気軽にできる割に縦方向への刺激が強いため、骨を強化する作用が期待できます。また、外で運動を行うことで日光を浴び、皮膚からビタミンDが精製されます。軽めのダンベルや水を満たしたペットボトルなどを持ち、自重以上の負荷でウォーキングやジョギングを行うとより効果的でしょう。
(女性の場合)大豆イソフラボンを摂取する
女性ホルモンであるエストロゲンには骨からカルシウムが血中に溶け出すのを抑制する作用があります。しかし閉経してしまうとエストロゲンの分泌量が低下し、骨から血中にカルシウムが溶けだしやすくなってしまいます。女性の場合、閉経前にはほぼ骨粗鬆症の患者が見られませんが、閉経後から急激に増える傾向にあります。そのため不足するエストロゲンを補給する必要があります。
大豆や大豆製品に含まれる大豆イソフラボンは摂取すると体内でアグリコンという物質に変化します。アグリコンはエストロゲンと非常によく似た構造をしており、不足したエストロゲンの働きを補う作用が期待できます。閉経後の女性は大豆や大豆製品を摂取することで骨粗鬆症を予防することができます。
イソフラボンは1日に75mgの摂取が効果的と考えられています。大豆イソフラボンは豆腐半丁(150g)で約40mg、豆乳1パック(200ml)で約40mg、納豆1パック(50g)60mg、味噌汁一杯5mgほど含まれています。和食中心の食生活なら簡単に摂取できるでしょう。洋食が多いならばサプリメントを利用するのがおすすめです。
骨粗鬆症対策のよくあるQ&A
豆乳と牛乳だと100mlあたりのカルシウムの含有量がそれぞれ15mgと130mgなので牛乳に軍配が上がります。しかし最近ではカルシウムを添加した豆乳も増えているため、そういったものを利用するとよいでしょう。豆乳は更年期で減少するエストロゲンの働きを補う大豆イソフラボンが多く含まれています。特に女性の骨粗鬆症の予防に有効なのでぜひ利用しましょう。
▶更年期障害を改善するサプリメントや食品とは。男女別症状や対処方法
妊娠、出産では以下の2つの理由で骨量が減少します。
- つわりにより食事量が減ることによるカルシウム不足
- 胎児にカルシウムを供給するため骨からカルシウムが溶けだすこと
母体の骨粗鬆症だけではなく、胎児の骨格の形成にも影響がでる可能性があるため、カルシウムを十分に摂取するようにしましょう。つわりにより食事量を確保できないときはゴマや干しエビ、チーズなど少量でカルシウムを補給できる食品や、カルシウムが添加された飲料、サプリメントなどを利用するとよいでしょう。また日光にあたりながら運動をすることも有効です。
牛乳でお腹を壊してしまう原因は人間の消化酵素では消化しにくい乳糖が原因です。カルシウムのサプリメントは牛乳由来のものはほぼなく、卵殻や貝殻のカルシウムを利用したものが多いため心配ないでしょう。もしも心配ならば利用前にメーカーに原料を問い合わせてみましょう。
なお、牛乳でお腹を壊してしまう人でもヨーグルトやチーズは意外に食べられてしまうという人も多いのではないでしょうか?それは乳糖が菌の力で分解されるためです。
骨粗鬆症はたしかに男性に比べて女性に多い病気です。全国には骨粗鬆症患者が1280万人存在すると考えられており、うち300万人が男性、980万人が女性です。女性に比べたら少ないですが男性にも発症する可能性のある病気です。
骨密度を保つために運動をする場合、ある程度上下の振動や刺激のあるものがおすすめされます。ジョギングやテニス、バドミントン、ボーリングなどの陸上のスポーツがよいでしょう。
水泳や水中ウォーキングなどは水の浮力の影響で骨への負担や刺激、振動が少ないため骨密度を維持するのにはあまり向きません(効果がないわけではないです)。
骨粗鬆症のまとめ
骨粗鬆症を発症し、高齢で骨折をしてしまうと寝たきりになってしまう可能性が高まります。本人がつらいだけではなく、介護の必要性も出てきてしまうため配偶者や家族の負担にもなってしまいます。骨粗鬆症は予防をすることができる病気です。栄養摂取と運動習慣、生活習慣の改善を心掛けるようにしましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医、サプリメントアドバイザー。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。