日本の夏は年々気温が上昇していると言われています。確かに数年前に比べて暑さが耐えづらくなっていますよね。
熱中症や日射病など、夏特有の病気はたくさんありますが、より多くの人に関わってくるのが「夏バテ」です。
夏の疲れは普段の疲れと異なります。夏バテが原因で免疫力が下がってほかの病気にかかりやすくなってしまうことも・・・今年はしっかりと夏バテ対策をしましょう!
目次
夏バテの症状・なりやすい人チェックリスト
「夏は食欲がない」「夏になるとぐったりする」という人は、すでに夏バテになっているのかもしれません。
こんな症状がある、去年はその症状でしんどかったと思うならば今年からは対策を始めましょう!
- 食欲不振で、そうめんなどあっさりしたもの中心の食事となってしまう
- ついつい食事を抜いてしまう
- 水分のみでお腹をいっぱいにしてしまう
- 空調の効いた部屋にいることが多い
- 気温が高くなると疲れやすくなる、ボーっとする
- 運動習慣がない
- 湯船に浸からない
- 夏になると下痢気味になる
- 肩こりや手足のしびれがある
- めまいがすることがある
基本的に当てはまる数が多ければ多いほど夏バテである可能性が高くなります。
特に1,2の食欲に関する項目と5の疲労に関する項目が当てはまる人は、今年も夏バテが起きる可能性があります。
夏バテを防ぐためにも気温が上がってきたらしっかりと対策をすることが必要です。
夏バテの原因~だるさと、疲労の違いは?~
夏バテは決して「ただ、だるい」「疲れが溜まる」といった症状だけのものではありません。こういったしんどさは、心身の不調によるものです。
夏バテの主な症状は以下の2つで、ありふれたものに見えますが、体の中で起きていることは夏バテ特有の現象です。
- だるさ、疲労感
- 食欲不振
それではなぜこれらの症状が現れるのかを見ていきましょう。
夏バテによる、だるさ、疲れのメカニズム
だるさや疲労感が現れる最大の原因の一つが「室内と室外の気温差」です。
特に7月から9月にかけては、室内は28度未満の涼しい環境なのに、室外は35度を超える「猛暑」という日が珍しくありません。
人間の体は自律神経によって体温の調整をしています。気温が高いと、自律神経のうち「副交感神経」が働き、血管を拡張することで熱を体外に発散しようとします。反対に気温が低いと「交感神経」が働き、血管を収縮させることで熱を体内に留めようとします。
しかし1日の間で極端に気温差があると、自律神経の乱れに繋がります。その結果、疲れやすくなったり疲労が溜まりやすくなったりして、夏バテの症状が現れていきます。
また自律神経が乱れると、冷えにも繋がります。特に女性の場合、男性に比べて筋肉量が少なく体温が低い傾向にあるため、微熱や頭痛、PMS(月経前症候群)の悪化、冷え症などが現れる「クーラー病」となってしまうことがあります。
夏バテによる食欲不振のメカニズム
自律神経の乱れは、食欲不振の原因にもなります。
自律神経は人間が食べ物を消化するときにも働く神経ですが、夏の気温差によってそのバランスが乱れてしまうと、消化機能の低下を招きます。その結果、食欲自体が落ち、あまりものを食べられなくなってしまいます。
また暑さにより喉が乾くため、水分をたくさん摂取することでお腹が膨れてしまうことも食欲不振になる原因の一つです。
食欲不振によりエネルギー摂取量が低下したり、体内でエネルギーを作り出すのに必要なビタミンの摂取量が低下したりすると、さらに、だるさや、疲労が悪化して、夏バテの症状全体がさらに重くなってしまうこともあります。
次の項目からは夏バテの予防方法を紹介していきます。
夏バテの予防対策① 効果的な食べ物や食事方法
夏バテは食欲不振によって疲労やだるさの症状が悪化し、さらにまた食欲不振になっていくという連鎖が起きがちです。
まず食欲不振に負けないようにバランスのよい食事を摂ることが最大の対策と言えるでしょう。
夏バテ対策の食生活・食習慣には以下のようなものがあります。
【1】水分の摂り方
夏は気温が高く、汗をかく量も増えるため、摂取する水分量も増えがちです。しかし暑いからと言って冷たい飲み物ばかり飲んでいては、夏バテを悪化させることもあります。
水分を摂取する際は、以下のポイントに気を付けましょう。
避けたほうがいい飲み物
甘い飲み物は避ける
炭酸飲料やフルーツジュース、加糖のコーヒーなどは非常に多くの糖分を含んでいます。糖分は夏場の疲労回復に効果的という側面もありますが、飲みすぎると満腹中枢を刺激してしまい、脳が食欲を抑えてしまうことがあります。
その結果、食欲不振に陥って食事が食べられず、夏バテになってしまうということが起きるため、甘い飲み物は避けるようにしましょう。
冷たい飲み物を飲みすぎない
冷房の効いた屋内にいることが多い人が冷たい飲み物ばかり飲むと、この時期起こりやすい自律神経の乱れがさらに悪化することがあります。
カフェインの多い飲み物を飲みすぎない
カフェインは利尿作用があるため、知らず知らずのうちに脱水を招くことがあります。コーヒーなどのカフェインが含まれた飲み物は一日に2-3杯くらいに留めましょう。
水・お茶ばかり飲まない
汗の中には塩分が含まれています。発汗量が多いとその分、体から塩分が失われていってしまいます。血液中の塩分濃度が低くなると疲れやだるさを感じやすくなり、めまいが起きることもあります。
水やお茶ばかり飲むのではなく、しっかりと電解質が含まれている飲料を飲むようにしましょう。
夏バテ予防に効果的な飲み物
温かい飲み物
特に女性の場合、筋肉量が少なく冷えが起きやすいので、夏のクーラーで夏バテが悪化する可能性があります。
「クーラーで冷えてしまったかも?」と意識したら、温かい飲み物を飲むようにしましょう。
ノンカフェインの飲み物
夏バテを軽減するためには、カフェインの作用により脱水症状になるのを避ける必要があります。ノンカフェインの麦茶やハイビスカスティー、お湯にスポーツドリンクの粉末を溶かしたものなどがおすすめです。
電解質のとれる飲み物
電解質(ナトリウムやカリウムなど)が不足すると倦怠感が増して、夏バテの症状が悪化する可能性があります。電解質を補給できるスポーツドリンクや経口補水液(OS1など)がお勧めです。
スポーツドリンクのカロリーや糖分が心配な人は半分に薄めて飲むようにするとよいでしょう。
【2】消化の良いタンパク質を食べる
食欲がないからといって、そうめんや飲み物、アイスクリーム、ゼリーなどの食べやすいものばかり食べていると、より夏バテが悪化してしまいます。
ボリューム感があり、消化がしづらい肉、魚といったタンパク質はなかなか食べる気が起きないかもしれませんが、夏バテを防ぐためには重要な食品です。しっかりと栄養摂取をするために、消化のよいタンパク質も十分に摂取するようにしましょう。食欲のない時は、以下のポイントを意識してみると食べやすくなります。
大根おろし、山芋(とろろ)、パイナップルなどを添える
生の大根おろしや山芋、パイナップルにはタンパク質や脂肪を分解する「食物酵素」が豊富に含まれています。夏バテの人の弱った消化機能を補ってくれる働きが期待できるため、積極的に摂取しましょう。
この時ポイントとなるのが「生」のまま食べるということです。食物酵素は熱でその働きを失ってしまうため、加熱調理は控えるようにしましょう。
豆腐は食欲がなくても食べやすい良質なタンパク源
豆腐はタンパク質が豊富に含まれています。
また柔らかく口当たりもよいため、さっぱりと食べることができます。
消化のよさ自体は普通ですが、夏バテで食欲がない時の際の心強いタンパク源となります。
鳥のささ身もさっぱりタンパク質の代表格
鳥のささ身は脂質が非常に少なく、肉類の中では消化のよい食材です。ゆでてしっかりとほぐせばさらに胃にやさしくすっきりと食べることができます。そうめんだけ、うどんだけ、といった食事にしがちですが、そこにささみを足せばしっかりとしたタンパク源となるためぜひ試してみましょう。
【3】ビタミンB1を摂取する
摂取した炭水化物がエネルギーになるためにはビタミンB1が必要です。せっかく十分に食事を食べてもビタミンB1の摂取量が少ないと、疲労が回復しません。
特に夏バテで食欲が下がっている場合、ビタミンB1が不足しがちなので、意識的に摂取するようにしましょう。
ビタミンB1は豚肉に多く含まれています。豚の冷しゃぶにして食べると食べやすいでしょう。その時に大根おろしや山芋の千切りと一緒に食べると、消化を助けてくれるのでさらにおすすめです。
サプリメントとして摂取する場合は「ビール酵母」がおすすめです。バランスよく様々なビタミンB群が含まれているため、夏バテ時の栄養補給に効果的です。
またビタミンB1はニンニクと一緒に摂取すると体内での吸収率が上がります。薬味としてニンニクのすりおろしなどをトッピングするのもよいでしょう。
ビタミンB1は日頃の疲れを翌日に残さないためにも重要です。忙しく働く方や、子育て中のお母さんのように、休みがとりにくい人は積極的に摂取しましょう。
【4】酸っぱい食べ物を食べる
トマトやレモン、グレープフルーツなど酸味のある野菜や果物を食べるのもおすすめです。
それらの食品に含まれているクエン酸は、疲労を回復する働きがあります。またトマトやレモンのさわやかな酸味は唾液や胃酸の分泌量を増やし、消化を助けてくれる働きがあります。
同時にトマトやレモン、グレープフルーツには、発汗によって失われるカリウムが豊富に含まれています。体内の水分と電解質のバランスを整えてくれる働きも期待できるので、おすすめです。
夏バテの予防対策② 体の負担を減らす3つの生活習慣
夏バテを予防するためには食生活だけではなく、生活習慣も重要になります。
睡眠や運動、室内環境などに気を付けて夏バテをしづらい体にしてきましょう!
【5】室温を下げすぎない
室温と外気温の温度差が5度を超えると自律神経が乱れやすくなります。なるべく室内外の気温差が5度を超えないように注意しましょう。
例えば外気温が34度の日は室内を29度程度にしておくと体の負担が減ります(ただし体感温度は湿度や日光、風にもよるので一概には言えません)。
オフィスや飲食店など自分で室温をコントロールできない場合は
- 冷房の風に直接当たらない
- 何か羽織るものを用意しておく
- 寒いと感じたら温かい飲み物を飲む
といった対策をしましょう。特に日頃休めない職業の人は、職場での環境が重要になります。少し意識するだけで疲れ方が変わるので、ぜひ実践しましょう。
【6】熟睡できない時はクーラーを利用する
暑くて夜中に何度も起きてしまい熟睡できないならば、夜間のクーラーの利用も検討しましょう。タイマーを掛けて途中で切れるようにすると、夜中に暑すぎて起きてしまうといった場合も同様です。
もともと睡眠するためには体温が低下する必要があります。気温が暑すぎて体温が十分に低下しないと、睡眠が浅くなってしまい、翌日に疲れが残ります。
室内外の気温差が5度を超えないように注意して、クーラーの設定温度を調整するとよいでしょう。クーラーの設定温度の目安としては、26度から28度くらいです。
また体に直接風が当たらないように風向きを調整して、タオルケット1枚くらいは掛けるようにしましょう。
【7】日常的に運動する習慣をつける
体温調整は自律神経の働きによって行われます。しかし日ごろ運動不足だと、体温を調整する働きが衰えていってしまいます。日常的に軽く汗をかくくらいの運動をして体温を調整する機能を高めておくと、夏バテの予防に効果的です。
運動の強度としては、軽く汗をかくくらいの簡単なもので十分です。気持ち早歩き程度で15分から20分ほどウォーキングを行うと汗ばんできます。
夏季に運動をする場合は、熱中症にならないように早朝や夜に行うようにしましょう。
もし夏バテになってしまったら? 悪化防止&なるべく早く回復するための方法
夏バテになってしまった場合、第一に考えることは、症状がそれ以上悪化しないようにきちんと食事を食べることです。
エネルギー不足やビタミンB1不足、タンパク質不足が続くと、より夏バテが悪化してしまいます。食欲がないからと言って食事を抜いてしまうのではなく、反対にしっかりと食べるようにしましょう。
夏の定番の冷や麦やそうめん、冷たいうどんは食べやすいですが、栄養素が炭水化物ばかりに偏ってしまいます。消化を助ける大根おろしやとろろを薬味として加えたり、タンパク源として鳥のささ身をトッピングしたり、紫蘇やトマト、カイワレ大根などの緑黄色野菜を散らしたりするだけでも栄養価が上がります。
また酢やヨーグルトなどの酸っぱい食べ物は食欲を増進させる働きがあります。普段のご飯を酢飯にしたり、どうしても食欲のないときはヨーグルトを食べたりするようにするとよいでしょう。
夏バテになってしまったら、まずはしっかりと食べることを心がけましょう。
夏バテによくあるQ&A
ゼリー飲料はあくまで小腹を満たすためのものです。エネルギー摂取を目的としたものであっても、そのカロリー量は200kcalを下回るものがほとんどで食事の代わりにはなりません。毎日のようにゼリー飲料を食事代わりにしているとエネルギー不足で夏バテが悪化してしまうことがあります。
なるべくゼリー飲料を食事代わりにするのは避け、どうしても食欲のない時はヨーグルトとグレープフルーツジュースなどを利用するとよいでしょう。
水分を摂りすぎると小腸で吸収しきれず、便に混じってお腹を下してしまうことがあります。特に夏バテの時は固形物の摂取量が減り、便を形成する材料が少なくなってしまうため、下痢が起きやすくなります。
また水分補給に硬水を飲んでいる人は下痢になりやすくなります。硬水にはミネラル分が多く含まれているため、腸を刺激してしまうからです。夏場の水分補給に硬水を利用するのは慎重に判断しましょう。
意外なようですが、実はカレーが夏バテ時にお勧めです。野菜や肉など様々な食品を煮込むため、バランスのよい栄養補給源となるためです。またカレーに含まれている香辛料は食欲を増進させる働きがあります。夏バテでなかなか調子が出ないというときはカレーを食べてみるのもいいかもしれません。
夏バテでどうしても食欲が湧かないときにはオレンジジュースをはじめとする果物のジュースがお勧めです。さわやかな酸味があるため、夏バテ中でも飲みやすく、果糖が含まれているためエネルギー源にもなります。ただし果糖が含まれているジュースを飲みすぎると食欲を低下させてしまうため、どうしても食事が食べられないときのみにしましょう。
グレープフルーツジュースやトマトジュースもおすすめです。オレンジジュースよりも酸味が強く、食欲を刺激する働きがあります。食事のときに紙パックのグレープフルーツジュースやトマトジュースを飲めば食欲を増進させてくれる効果が期待できます。
女性は一般的に男性よりも自律神経のバランスが乱れやすいです。そのため夏バテになると一層冷え性が酷くなったり、生理不順になったり、PMSが悪化したりする可能性があります。
筋肉量が少ないためどうしても体が冷えて、自律神経のバランスが乱れがちなので、体温調整をしやすい上着やひざかけを常備するようにしましょう。
春からできる夏バテの予防方法・・・となると少し難しいかもしれません。夏バテは気を付けていても、起きるときは起きるため、完全に防ぐことは難しいでしょう。
どちらかといえば、夏の間のクーラーの風を避けたり、しっかりと栄養素をとったりすることで対処療法的に対策するのが望ましいです。
強いて言えば、一年を通して運動をしたり、お風呂で汗をかいたりして、体温調整機能を整えておくと夏バテの症状を軽減できる可能性があります。
夏バテのまとめ
夏バテは単なる疲労・だるさではなく、自律神経の乱れが引き起こす心身の不調です。
気温が高くなるとクーラーを効かせて冷たいものばかり飲んだり食べたくなったりしてしまいがちですが、室内外の気温差に気を付けて体を冷やしすぎないように心がけましょう。
年々、夏の暑さは厳しくなっていっています。水分ばかり摂取するのではなく、タンパク質やビタミンB1などバランスよく栄養素を摂取できるような食事を心がけましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。