夜、しっかり眠っているはずなのに寝起きが悪い、起きたときすっきりしない・・・
そんな症状が現れている場合はなんらかの睡眠障害が起きている可能性があります。
睡眠時間を確保しているのにも関わらず寝起きが悪いときは心身にどのようなことが起きているのでしょうか?
目次
睡眠の質 セルフチェック
朝がつらい、寝起きが悪い、これらは睡眠の質が低下している事によって、しっかりと休めていないことが原因かもしれません。
以下のチェックリストに当てはまる場合、知らず知らずに睡眠の質が低下しています。
- ストレスが溜まっている
- 寝る前に熱いお湯で入浴する
- 寝る前に寝酒をする
- 寝る前にスマートフォンをいじる
- 寝る直前に夕飯を食べる
- 寝る直前に運動をする
- 日中にカフェインを大量に摂取する
- 運動をあまりしない
- 喫煙習慣がある
- 過度にアルコールを摂取する
- 更年期に差し掛かっている
- (女性の場合)生理前である
これらの要因で寝起きが悪くなるのは自律神経のうちの交感神経が大きく関わっています。
交感神経は日中の活動に関わる神経で心身を興奮させたり緊張させたりする働きがあります。
心身の緊張や興奮は仕事やスポーツ、家事などのパフォーマンスや効率を向上させるのに必要です。
しかし夜間に交感神経が優位に働いてしまうと、脳や神経を高ぶらせて寝付きづらくなったり、寝ている最中に中途覚醒しやすくなったりしてしまいます。
ストレスや40度を超えるような熱いお湯、スマートフォンの光、寝る直前の食事・運動などは交感神経を刺激してしまうため、翌朝のスッキリとした目覚めのためには避けるようにしましょう。
寝起きの悪さに効果的な成分
睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、起立性調節障害などの疾患に原因がある場合、寝起きの悪さを解消するためには医療機関での治療が必要です。
一方で交感神経が優位になることによる脳や神経の高ぶりが原因の睡眠の質の低下による寝起きの悪さは食事で解消できることがあります。
カルシウム
カルシウムは人体では主に骨に存在するミネラルです。
一方で神経の高ぶりを抑え、精神を鎮める働きがあります。
自律神経が優位になることによる脳や神経の緊張を緩和して寝付きやすくなったり、睡眠時に中途覚醒しづらくなったりさせる働きが期待できます。
カルシウムは必須ミネラルの一つですが、不足しやすく吸収率もあまりよくないため意識的に摂取することが必要です。
必要量 | 推奨量 | 耐用上限量 | |
---|---|---|---|
12-14(歳) | 850 | 1000 | |
15-17(歳) | 650 | 800 | |
18-29(歳) | 650 | 800 | 2500 |
30-49(歳) | 550 | 650 | 2500 |
50-69(歳) | 600 | 700 | 2500 |
70以上(歳) | 600 | 700 | 2500 |
必要量 | 推奨量 | 耐用上限量 | |
---|---|---|---|
12-14(歳) | 700 | 800 | |
15-17(歳) | 550 | 650 | |
18-29(歳) | 550 | 650 | 2500 |
30-49(歳) | 550 | 650 | 2500 |
50-69(歳) | 550 | 650 | 2500 |
70以上(歳) | 500 | 650 | 2500 |
牛乳 | 1カップ(200ml) | 231mg |
---|---|---|
ヨーグルト | 半カップ(105g) | 126mg |
プロセスチーズ | 1片(20g) | 126mg |
干しエビ | 大さじ1(8g) | 586mg |
煮干し | 5尾(10g) | 220mg |
水菜 | 1束(150g) | 315mg |
小松菜 | 半束(120g) | 220mg |
がんもどき | 大き目1個(100g) | 270mg |
木綿豆腐 | 半丁(150g) | 180mg |
納豆 | 1パック(50g) | 45mg |
カルシウムは乳製品のほか、小エビや小魚、大豆加工食品に多く含まれています。
カルシウム自体、あまり吸収率がよいミネラルではないためビタミンDやクエン酸、酢酸などと一緒に摂取するとよいでしょう。
またカルシウムと協働して働くマグネシウムにも神経の高ぶりを落ち着かせる作用があります。
トリプトファン
トリプトファンはアミノ酸の一種です。
人体で合成することができないため必須アミノ酸に分類されます。
トリプトファンは体内でセロトニンという神経伝達物質を合成する材料となります。
セロトニンは興奮や緊張、イライラを抑えて精神を安定させる働きがあります。
トリプトファンが不足するとセロトニンが十分に合成できなくなり、寝付きづらくなったり中途覚醒しやすくなったりすることがあります。
トリプトファンの摂取目安量は設定されていません。
トリプトファンはカツオやまぐろといった魚類や牛乳、チーズといった乳製品、動物のレバーなどに多く含まれています。
アミノ酸なので総じて動物性食品に多く、植物性食品には少ない傾向にあります。
あまり動物性食品を食べない人は大豆加工食品やサプリメントから摂取するとよいでしょう。
ビタミンB6
ビタミンB6は必須ビタミンであるビタミンB群の一つです。
主にタンパク質の代謝に関わる補酵素として働きます。
食品から摂取するほか、腸内細菌の働きによって合成され宿主である人間に供給されるため通常の食生活を送るうえでは不足する心配はありません。
ビタミンB6は神経伝達物質であるドーパミンやセロトニン、GABAなどの合成にも必要になる栄養素です。
ビタミンB6が不足することでこれらの神経伝達物質の合成量が低下して、不眠の症状や過剰な眠気、情緒不安定、うつが現れることもあります。
先に述べた通り、腸内細菌の働きによって合成されるため通常の食生活を送っている限り不足することはありません。
しかし妊娠中はホルモンバランスの関係で不足しやすく、抗生物質を服用している場合は腸内細菌の働きが低下するため不足することもあります。
食品の中ではまぐろやかつお、レバー、卵、バナナなどに多く含まれています。
生活習慣の改善で寝起きの悪さを解消
生活習慣が原因で睡眠の質が低下し、寝起きが悪くなっている場合もあります。
寝起きを悪くしてしまう生活習慣には以下のようなものが当てはまるため、該当する場合は改善しましょう。
カフェインを控えめにする
カフェインには覚醒作用があり脳や神経の高ぶりを招きます。
寝起きの悪さをはじめ、寝付きづらい・睡眠時に中途覚醒してしまうなどの睡眠障害がある場合はカフェインの摂取は控えるべきでしょう。
カフェインは、コーヒーや緑茶、紅茶、ウーロン茶に多く含まれています。
またうっかりしやすいものでは、チョコレートやコカ・コーラ、栄養ドリンクにも含まれているため、注意が必要です。
カフェインが体内で半減するのには個人差があり、2-8時間かかります。
午後にカフェインを摂取してしまうと、入眠や睡眠に悪影響を及ぼしてしまうことがあるためどうしてもコーヒーや緑茶が飲みたい場合はなるべく午前中にしましょう。
布団に入ってからのスマートフォンを控える
スマートフォンやパソコンのディスプレイなどの強い光は交感神経を刺激して脳や神経を高ぶらせてしまいます。
布団に入ったらスマートフォンをいじるのは避けたほうが良いでしょう。
どうしても寝付けなくて手持無沙汰になってしまう場合、ベッドライトや間接照明程度の光で本を読むのがおすすめです。
運動をする
運動をすることで心肺機能や体温調整機能が働きます。
心肺機能や体温調整機能には交感神経と副交感神経が働くため、自律神経を調整する働きが期待できます。
また適度な運動による疲労感は寝つきをよくする働きがあるため、睡眠の質を高め翌朝のスッキリとした目覚めに繋がります。
激しすぎないジョギングやスイミング、ヨガなどのスポーツがおすすめです。
ただし就寝前の激しい運動は交感神経を刺激してしまうため避けるようにしましょう。
ストレスをためない
人間はストレスを受けると交感神経が刺激されます。
心身の緊張をもたらし、寝付きづらくなったり睡眠中に中途覚醒をしてしまったりするため睡眠の質が低下して寝起きが悪くなってしまいます。
ストレスを溜めないのが一番ですが、現代社会においてストレスと無縁に生きることは非常に難しいため適度に発散するとよいでしょう。
スポーツやカラオケ、(たまにの)好きなものを好きなだけ食べるなど自分なりのストレス発散方法を見つけるようにしましょう。
寝酒は避ける
アルコールは心身の緊張をほぐし、寝付きやすくする作用があります。
しかし一方で中途覚醒しやすくしてしまう作用もあり、眠りが浅くなってしまうこともあります。
中途覚醒してしまい睡眠の質が低下すると朝のスッキリとした目覚めを阻害してしまうため、寝酒は避けるようにしましょう。
寝起きの悪さと関係のある病気
睡眠の質を低下させてしまう要因が生活習慣によるものではなく、「疾患」が原因になっている場合があります。
適切な治療を施すことで、寝起きの悪さや、朝のつらさを改善させることができます。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群はその名の通りに睡眠時、無呼吸状態に陥ってしまう病気です。
舌が大きい、肥満体型である、顎が小さい、扁桃肥大アデノイドであるなどの要因により睡眠中に気道が塞がってしまい、無呼吸状態が発生します。
無呼吸状態になると脳や身体が覚醒状態となるため、睡眠の質が低下します。
よく見られる症状として、本来脳が休んでいるはずの睡眠中に無呼吸により覚醒状態になってしまうことで、翌日の倦怠感や集中力の欠如、強い眠気などに襲われることが挙げられます。
この症状があると、作業の効率性を著しく低下させ、仕事や家事に集中できなくなってしまいます。
また運転中の居眠りや眠気による集中力の欠如が発生することで重大な事故に繋がる可能性もあります。
そのほか無酸素状態が続くことによって高血圧を招き、果てには心疾患や脳卒中などの致死性の高い疾患のリスクを高めてしまいます。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠の質を著しく低下させてしまうため、寝起きが悪くなったり朝がつらくなったりする可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群はQOLを低下させ、致命的な事故や疾患を引き起こす可能性があるため、放置せずに治療すべき疾患です。
睡眠時無呼吸症候群の患者は大きないびきを継続的にかく傾向にあるため、寝起きのつらさとともにパートナーにいびきを指摘されている場合は一度検査を受けるとよいでしょう。
そのほかの症状としては、息苦しさで夜間起きてしまったり、起床時に口腔内が乾燥していたり頭痛が生じたりすることが挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群は治療することができる病気です。不安に感じたら睡眠外来や睡眠センター、睡眠クリニックなどで相談をしましょう。
睡眠相遅延症候群(すいみんそうちえんしょうこうぐん)
睡眠相遅延症候群は夜型の生活が続くことで睡眠のリズムが崩れ、夜眠れず朝にきちんと起床できなくなる病気です。体内時計の乱れが原因です。
適切な時間に入眠と起床ができないことが問題で、睡眠の質自体には問題がありません。
そのため疲労や倦怠感、集中力の欠如などは起きないことが大半です。
長期休暇や一時的な徹夜などで入眠と起床のリズムがずれてしまうことはありますが、通常数日でそのリズムはもとに戻ります。
睡眠相遅延症候群は、治療を施さないと入眠と起床のリズムが元に戻らないことが特徴です。
治療には高照度光療法という太陽光と同等の光を浴びることにより体内時計を調整する方法が一般的です。
診療科は睡眠時無呼吸症候群と同じく睡眠外来や睡眠クリニックになります。
うつ病
うつ病になると気分が落ち込むほか、睡眠障害が現れることもあります。
寝付けない、眠りが浅い、夜中に何度もおきてしまうといった症状が見られ、寝起きの悪さや朝のつらさをもたらすことがあります。
うつ病は脳内の神経伝達物質のセロトニンとアドレナリンのレベルが低下することで発症すると考えられています。
セロトニンは睡眠にも関わる神経伝達物質でもあるため睡眠障害が生じます。
休養やカウンセリングのほか抗うつ薬の処方で治療をしていきます。診療科は心療内科や精神科になります。
起立性調節障害
「起立性調節障害」とは10歳から16歳のころに好発する自律神経機能が失調する病気です。
通常の状態ならば起立しても血圧は大きく変動しません。
しかし起立性調節障害が起こると起立することで血圧が大きく低下したり心拍数が大きく増加したりする症状が見られます。
そのほか起き上がるのがつらくなりベッドから起きられなくなってしまったり、立ちくらみが生じたり、動悸や息切れで苦しさを覚えたり、血圧が低下し脳に血液が回らないことで集中力が欠如したりする症状が見られます。
これらの症状は午前中に見られることが多く、午後になるにつれ体調が回復していきます。
10歳から16歳の思春期の年齢に好発しますが、成人においても見られる病気です。
子どものうちはどうしても体調が悪ければ最悪、学校を休むという選択を取ることができます。
しかし仕事をしている場合、体調が悪くても休むわけにはいかないケースが出てきます。
朝の起きづらさや立ちくらみなど他人から見たら理解されにくい症状が現れるため、精神的に追い詰められてしまうこともあります。
起立性調節障害は交感神経が過剰に反応することで発症すると考えられています。
早寝早起きや運動などの生活習慣改善指導、水分の摂取などの非薬物療法から始め、症状が改善されない場合は血圧を上げる薬物療法も検討されます。
どうしても朝がつらいという場合は起立性調節障害の可能性もあるため、一度医療機関で診察を受けることをお勧めします。
子どもの場合は小児科、成人の場合は睡眠外来や神経内科のある医療機関で診察を受けるとよいでしょう。
むずむず脚症候群
むずむず脚症候群は夕方から夜にかけて足にむずむずとするような痛みやかゆみが生じる病気です。
症状が重くなると我慢ができないくらいの痛みやかゆみが生じることもあり、夕方以降の時間帯に発生することも多いことから、入眠や睡眠時の中途覚醒を招き睡眠の質を低下させます。
寝起きが悪くなったり、朝がつらかったり、日中の集中力の欠如や倦怠感にもつながります。
男性に比べて女性に多く発症する傾向にあります。
神経伝達物質の一つであるドーパミンの機能障害で発症すると考えられているため、治療としてはドーパミンを増やす薬を服用することやドーパミンを体内で合成するために必要な鉄分の補給することが挙げられます。
診療科は睡眠外来や神経内科になります。
寝起きの悩みによくあるQ&A
概日リズム睡眠障害を発症していると考えられます。
ざっくりいうと体内時計が乱れてしまったため、寝たい時間に寝られず置きたい時間に起きられない病気です。
コラム部分で解説した起立性調節障害もこの概日リズム睡眠障害の一つです。効果的なのは「毎日一定の時間に起床する」ことです。
一定の時間に起床することで体内時計のリズムが調節され、夜間に眠気が生じ朝ぱっちりと起きられるようになります。
ただし概日リズム睡眠障害は独力で治療するのは少し難しいかもしれません。
同じ時間の起床を試してみて、改善が難しそうならば医療機関での治療をおすすめします。
日常生活に運動習慣を加えて身体を適度に疲労させてみましょう。
疲労は眠気を誘発して深い眠りを誘うため、睡眠の質を上げるのに効果的です。眠る2時間前くらいまでに軽いジョギングやスイミングなどをしてみるとよいでしょう。
起床時に目を覚ます目的も兼ねて運動をするのもおすすめです。
太陽の光と運動による交感神経の刺激で体内時計を調節する作用も期待ができます。
朝、寝起きが悪い場合「起きられるのに起きない」のか「起きられない」のか判断することが重要です。
その気になれば起きられるのと、どうしても起きられないのは全く別物です。
その気になれば起きられるのならば、起きた瞬間布団から出て冷たい水で顔を洗いましょう。
起きられないのならばなんらかの睡眠障害の可能性があります。一度医療機関で診察を受けるとよいでしょう。
睡眠は寝だめすることができません。またダラダラと寝てしまうことで体内時計のリズムが乱れることも考えられます。
なるべくならば普段通りに起きるのが望ましいでしょう。ただせっかくの休日に普段通り起きるのももったいないですよね。
自分の経験上、これくらいなら夜ちゃんと寝られるというのが分かっていれば多少、遅く起きても問題ありません。
寝起きの悪さの対策のまとめ
寝起きが悪いというのは単なる怠けとみなされてしまうことがまだまだ多いです。
しかしその背景には睡眠障害やうつ病などが隠されているかもしれません。
寝起きの悪さのほかにふらつきや頭痛、顕著な集中力の欠如などの症状が見られる場合は一度医療機関で診察を受けましょう。
脳や神経の高ぶりによる睡眠の質の低下が招く寝起きの悪さならば、食生活や生活習慣の改善で解消されることがあります。
睡眠の質を向上させると寝起きの悪さ以外にも仕事の効率や意欲なども改善される場合もあります。
積極的に食生活や生活習慣の改善を試みましょう。
帝京大学医学部卒業。麻酔科標榜医、麻酔科認定医。 日本麻酔科学会、日本抗加齢医学学会(アンチエイジング学会)会員、生活習慣病アドバイザー。
「治療」よりも「予防」を重視して診療にあたる現役医師。麻酔科医として勤務するだけではなく、加齢による身心の衰えや疾患に対するアドバイスを行う。