鉄とは
鉄は微量ミネラルの1つであり、血液の赤血球を構成する成分です。
赤血球のヘモグロビンに存在し、ヘモグロビンは細胞や組織に酸素を運搬する役割があります。
筋肉中に存在する鉄はミオグロビンの形で存在し、ミオグロビンは筋肉中に酸素を蓄える働きをしています。
体内には約4gの鉄があり、そのうちの約70%は血液中のヘモグロビンにヘム鉄(機能鉄)の形で存在します。
約20~30%は肝臓,脾臓,骨髄に貯蔵鉄として蓄えられ、ヘム鉄が減少すると、血液中に溶け出して補います。
残りの数%の鉄は酵素の構成成分となり、エネルギー代謝や肝臓での解毒作用に関与します。
鉄を多く含む食べもの
鉄は次のような食品に多く含まれています。
- 豚レバー 1皿 60g:7.8mg
- 鶏レバー 2串 60g:5.4mg
- あさり 佃煮 30g:5.6mg
- 牡蠣 生5個 50g:0.9mg
- 納豆 1パック50g:1.5mg
- 高野豆腐 6切れ 17g 1人前:1.3mg
- パセリ 5枝25g:1.8mg
- ほうれん草 茹で100g:0.9mg
- ひじき煮物 1人前:3.4mg
- ざるそば ネギ、ゴマ、わさび付1人前:3.0mg
- クラムチャウダー 1人前:2.0mg

鉄は肝臓,骨髄,脾臓,筋肉などに貯蔵鉄の形で蓄えられ、男性や閉経後の女性では不足することはあまりありません。アスリートや体力仕事が多い方、成長期のお子様、妊娠,授乳中の方は消費量が増え、女性は月経により損失分が多くなります。
植物性食品に含まれる非ヘム鉄は体内への吸収が悪く、鉄の補給には動物性食品のヘム鉄の方が効率よく摂取できます。肉,魚が苦手な方は、鉄のサプリメントを利用して補給してみましょう。
鉄の生理作用・メカニズム
体内の鉄の約70%は赤血球のヘモグロビン中のヘム鉄であり、残りの約20~30%は非ヘム鉄として存在します。鉄は体外に排泄される量は少なく、大部分が再利用されます。食事として摂取する約5~10%(約1mg/日)が汗,尿,便として体外へ排泄され、吸収と排出のバランスが保たれています。
食事から摂取された鉄はヘム鉄(Fe2+)の形で、十二指腸と小腸上部で吸収されます。健康な人では、鉄の吸収量は摂取量の約10%ですが、貯蔵鉄の少ない人では、約30%にまで吸収率が増加します。食品中の鉄の形や共存物質でも吸収量が変化します。吸収された鉄は血清鉄として全身に運ばれ、赤血球の造血に利用されて、一部は貯蔵鉄として蓄えられます。
ヘモグロビンは体内へ酸素を運搬した後、脾臓で分解されますが、鉄は再度ヘモグロビン合成に利用されます。
ヘム鉄(Fe2+)
動物性食品に含み、吸収率が約10~20%です。動物性食品に多く含まれる鉄は二価鉄の形をとるため、無機鉄より効率よく吸収され、吸収率が上がります。
非ヘム鉄(Fe3+)
植物性食品に含み、吸収率が約1~6%です。植物性食品に含まれる鉄は無機の三価であり、胃で二価鉄に還元されてから小腸で吸収されるため、動物性食品の鉄に比べて吸収率が低下します。ビタミンCは還元性物質として働き、三価鉄を二価鉄に還元して鉄の吸収を促します。
鉄の効果,効能
鉄には次のような効果,効能があります。
- 造血作用
- 貧血予防
- 疲労回復
- 骨,歯を丈夫にする作用
- タンパク質代謝促進

鉄不足をセルフチェック
次のような場合、鉄が不足している可能性があります。
不足はしていないが、多めに摂った方がいい人
次に当てはまる場合、鉄を多めに摂るよう心がけて下さい。
- 菜食を好む方
- 妊活中,妊娠,授乳中の方
- 月経過多の方

植物性食品に含まれる鉄は動物性食品に含まれる鉄より吸収率が低下します。
植物性食品由来の鉄は吸収を促すビタミンCと合わせて摂ることや、鉄を多く含むドライフルーツを朝食や間食にとりいれて、鉄不足を補いましょう。
鉄がやや不足していると生じる症状(潜在性欠乏症)
次に当てはまる場合、鉄が不足している可能性が高いです。積極的に摂取することが必要です。
- 頭痛,めまい
- 疲労,倦怠感
頭痛,めまい,倦怠感,疲れやすいなど鉄欠乏性による貧血の症状がある方は、吸収率の良い動物性のヘム鉄を含むレバーや魚介類などの食材を利用してみましょう。
鉄が完全に不足していると生じる症状(欠乏症)
鉄は体内での吸収率が低く、特に成長期のお子様や妊娠,授乳中の方は鉄の必要量が増加します。また、出血や月経に伴い、鉄欠乏症を引き起こすことがあります。
食生活の乱れにより、鉄欠乏性による貧血や疲労がある方は、意識的に鉄分の補給を行うようにしましょう。
- 貧血
- 動悸,息切れ,めまい
吸収率の高いヘム鉄を含むレバーや魚介類を多く摂るように心掛け、不足分はサプリメントや栄養ドリンクを利用しましょう。
潜在性欠乏症・欠乏症とは?
潜在性欠乏症とは、慢性的にミネラルが欠乏している状態です。「なんとなく体調が悪い」という症状が続き、この状態が長く続くと、生活習慣病にかかるリスクが高くなります。
欠乏症とは体内のミネラル分が欠乏している状態です。よくおこる症状としては、ヨウ素欠乏による甲状腺腫や鉄欠乏による貧血、カルシウム不足による骨粗鬆症、亜鉛不足による味覚障害、カリウム不足による循環器疾患です。
鉄の推奨量と摂取量・上限量
男性 | 女性 | ||||
年齢 | 推奨量(mg/日) | 耐容上限量(mg/日) | 推奨量 月経なし(mg/日) | 推奨量 月経あり(mg/日) | 耐容上限量(mg/日) |
0~5か月 | – | – | – | – | – |
6~11か月 | 5.0mg | – | 4.5mg | – | – |
1~2歳 | 4.5mg | 25mg | 4.5mg | – | 20mg |
3~5歳 | 5.5mg | 25mg | 5.0mg | – | 25mg |
6~7歳 | 6.5mg | 30mg | 6.5mg | – | 30mg |
8~9歳 | 8.0mg | 35mg | 8.5mg | – | 35mg |
10~11歳 | 10.0mg | 35mg | 10.0mg | 14.0mg | 35mg |
12~14歳 | 11.5mg | 50mg | 10.0mg | 14.0mg | 50mg |
15~17歳 | 9.5mg | 50mg | 7.0mg | 10.5mg | 40mg |
18~29歳 | 7.0mg | 50mg | 6.0mg | 10.5mg | 40mg |
30~49歳 | 7.5mg | 55mg | 6.5mg | 10.5mg | 40mg |
50~69歳 | 7.5mg | 50mg | 6.5mg | 10.5mg | 40mg |
70歳以上 | 7.0mg | 50mg | 6.0mg | – | 40mg |
妊婦(付加量) | |||||
初期 | +2.5mg | – | – | ||
中期,後期 | +15.0mg | – | – | ||
授乳婦(付加量) | +2.5mg | – | – |
鉄の効果的な摂り方
鉄の効果をアップさせる摂り方をご紹介します。
効果をアップさせる摂り方
赤血球を構成するヘモグロビンはタンパク質と鉄が結合して生成されます。
炭水化物,脂質,タンパク質,ビタミン,ミネラルの5大栄養素を含むバランス良い食事を摂れると、鉄の効果をアップさせます。
ラクトフェリン
ラクトフェリンは、母乳に多く含まれるたんぱく質です。タンパク質と鉄が結合した物質なので、鉄を効率よく吸収できます。
吸収率をアップさせる摂り方
肉,魚など動物性食品に含まれる鉄は植物性食品に含まれる鉄よりも約3~5倍吸収率が上がります。
植物性食品に含まれる鉄はビタミンCと合わせて摂ることで、吸収が促進されるので、果物や野菜と合わせて摂取すると良いです。
鉄とあわせて摂りたいビタミン,ミネラル
ビタミンB群
造血作用のあるビタミンB12,葉酸と合わせて摂ることで、鉄の効能が高まります。
ビタミンC
植物性食品(ほうれん草,パセリ,小豆,大豆,とうもろこし等)に含まれる鉄はビタミンCと合わせて摂ると、吸収が促進されます。
鉄は二価鉄として小腸で吸収されるため、植物性食品中の三価鉄は吸収率が低下します。ビタミンCは三価鉄を二価鉄に還元して鉄の吸収を高めます。
銅
赤血球のヘモグロビン合成を助けたり、鉄の吸収を良くしたりします。貧血の予防に役立ちます。
鉄の作用を邪魔するビタミン,ミネラルや成分
タンニン、フィチン酸、シュウ酸は、鉄の吸収を阻害します。
タンニン
お茶やコーヒー、紅茶に含まれます。多量に飲む場合は、食事の前後30分程あけると鉄の吸収阻害を減らせます。鉄を摂取する時はタンニンが少ない飲み物(麦茶,ハーブティーなど)を選びましょう。
フィチン酸
玄米や大豆などに含まれるフィチン酸は鉄と結合して不溶性にし、鉄吸収を妨げます。穀物の外皮に多く含み、玄米は十分浸水時間をとることや、タンパク質と合わせて摂ることで、鉄の損失を抑えられます。
シュウ酸
ほうれん草やたけのこに含まれるシュウ酸は鉄と結合して鉄を排出します。シュウ酸は水溶性のため、茹でてアク抜きすると鉄の損失を防げます。
摂取期間の目安
鉄は吸収率が悪く、継続的に摂ることが必要です。
鉄摂取の注意点
鉄の摂取の際は、次の点にご注意ください。
鉄の副作用
普段の食事による過剰症はあまりおこりません。
しかし、サプリメントや栄養ドリンクで多量の鉄を摂りいれた場合、副作用で胃もたれ,吐き気などの胃腸障害が生じます。
鉄を摂ってはいけない人,注意を要する人
鉄は不足しやすく、過剰症の心配はほとんどありません。
一緒に摂ってはいけない成分,食品,薬など
特にありません。
鉄のよくある疑問Q&A
特別な症状ではありませんので、サプリメントの1日の用量を守ってお飲み下さい。過剰摂取には注意し、摂取を控えても黒っぽい便が出る場合は、医師や薬剤師にご相談ください。鉄は吸収率が悪く、小腸から1日に1㎎程しか吸収されません。吸収されなかった鉄は食べ物のカスと混ざって、黒っぽい便として排泄されます。
ヘム鉄は動物性食品に多く含まれ、非ヘム鉄は植物性食品に含まれている鉄です。ヘム鉄の吸収率は非ヘム鉄より3~5倍ほど吸収率が良いですが、非ヘム鉄はビタミンCと合わせて摂ることで吸収が促進されます。
- ヘム鉄を多く含む食品:レバー,あさり,しじみ,いわし,卵黄
- 非ヘム鉄を多く含む食品:大豆製品,パセリ,ほうれん草,切干大根,ひじき,きくらげ
はい。葉酸には造血作用があり、鉄と葉酸を合わせて摂ることで、効能が高まります。
もっと詳しく:葉酸の効果と効能 妊活中・妊娠前から妊娠中に摂るべきビタミン
鉄の効果効能のまとめ
鉄は微量ミネラルとして血液の赤血球を構成する成分です。造血作用,貧血予防,疲労回復,骨/歯を丈夫にする作用があり、レバー,魚介類,野菜,種実,海草に多く含まれています。
体内には約4gの鉄が存在し、そのうちの約70%は血液中のヘモグロビンにヘム鉄(機能鉄)の形で存在します。
約20~30%は肝臓,脾臓,骨髄に貯蔵鉄として蓄えられ、ヘム鉄が減少すると、血液中に溶け出して補います。
残りの数%の鉄は酵素の構成成分として、エネルギー代謝や肝臓での解毒作用に関与します。
鉄は欠乏しやすいミネラルです。不足すると、貧血,めまい,疲労,神経過敏などの症状を引き起こしますので、食事で十分量が摂れない際は、サプリメントや栄養ドリンクで補給するようにしましょう。
米国にて高等教育終了後帰国し、食物栄養学部を卒業。大学研究室にて秘書、翻訳を経験後、現在管理栄養士として栄養関連記事の執筆、栄養指導、英日・日英翻訳に従事。
「シンプルな食スタイルで元気になりたい」こんな思いを伝えていきたいと、日々探求しています。